AI技術の急速な進化を背景に、中国では初の全編AI制作映画『霊を導く者 浮生夢(霊魂擺渡・浮生夢)』が今夏公開予定となり、議論を呼んでいる。
「効率向上」を名目としたこのデジタル化の流れの裏では、肖像権の侵害や内容の低俗化、当局による情報の見せ方の操作など、いくつものリスクが潜んでいると、複数の専門家が本紙の取材に対し指摘した。
こうした議論の中心にあるのが、動画配信大手の愛奇芸などが制作に関わるこの全編AI映画だ。人物の顔や動き、音声、音楽、編集に至るまで、ほぼすべてをAIで作っている。過去の人気作品をもとに、登場人物の若い姿を再現する試みも進められている。
しかし、問題となっているのが、俳優の顔や声の無断利用だ。制作側は「契約済み」と説明する一方、俳優側は「そのような許可はしていない」と否定するケースが相次ぎ、契約の実態が分かりにくい状況となっている。
さらに、こうした映画とは別に、AI制作の動画が急増し、個人でも簡単に作れる環境のなかで無断利用の問題も広がっている。易烊千璽(イー・ヤンチェンシー)や龔俊(ゴン・ジュン)など複数の人気俳優が、自身の肖像や音声が無断で使われていると訴えている。こうしたAI作品は内容が過激で刺激的なものも多く、本人のイメージを損なう懸念も出ている。
この現状について、中国問題の時事評論家である王赫氏は本紙の取材に対し、「問題が次々と噴き出している状態だ」と指摘し、その背景については「中国共産党による長年の統治の中で社会の道徳や倫理の基準を壊してきたことが根本にある」と分析した。
台湾のシンクタンク「華人民主書院」の理事である曾建元氏も本紙の取材に対し、「AIによる高精度の再現技術が広がれば、一般の人が情報の真偽を見分けることは極めて難しくなる」と警告した。そのうえで、情報を統制する体制のもとでは、AIを使って大量の作られた情報が流され、人々の判断力が揺らぐ可能性があると指摘した。
これに対し、台湾ではAIの活用に比較的慎重な姿勢が取られており、ドラマや広告は人が演じる形が中心である。ニュースなどでAIを使う場合には「AIで再現した映像」であることを明確に示し、誤解を避ける取り組みが行われている。
中国当局はAIを国家戦略として強く推進しているが、規制を強めれば創作は止まり、緩めれば混乱が広がるという矛盾を抱えていると、王氏は本紙の取材に対し指摘する。そのうえで、AIの乱用が進めば内容は制御できない状態に陥り、強い統制との衝突を招き、最終的には体制そのものに跳ね返ると警告している。
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