EU対中貿易赤字1日10億ユーロ 関税強化と供給網再編で産業主権防衛

2026/05/26 更新: 2026/05/26

欧州連合(EU)は対中で1日10億ユーロの貿易赤字に直面。中国EVや部品流入を受け、供給網の多元化義務や懲罰的関税を検討している。ドイツ製造業の雇用減少や「中国ショック2.0」の影響も浮き彫りとなり、産業主権の行方が焦点となっている。

この状況を打開するため、EUは強硬措置を検討しており、供給網の多元化の義務化や懲罰的関税の導入などが含まれる。  

EU、強硬手段を検討:供給源の多元化義務と懲罰的関税  

中国共産党(中共)が貿易手段の「武器化」を強める中、EU委員会は積極的な立法措置の準備を進めている。英紙『フィナンシャル・タイムズ』がEU関係者の話として報じたところによると、EUは現在、供給網の「リスク低減」に関する法案を検討しており、化学や産業機械などの重要分野の企業に対し、主要部品の調達先の分散を求める方針である。  

報道によれば、新たな措置案では、企業は今後、単一の供給業者から主要部品を30〜40%を超えて調達することを禁止する。また、残りは少なくとも3社以上の供給元から分散調達する必要があり、かつ調達先が特定の一国に偏ってはならないとしている。  

EUの通商担当委員マロシュ・シェフチョビッチ(Maros Sefcovic)氏は、対中で1日最大10億ユーロに達する貿易赤字の是正と、中共による「貿易の武器化」から欧州企業を守ることを目指している。  

昨年、中共がレアアース磁石などの重要部品に輸出規制を導入した後、欧州の一部自動車生産ラインは操業停止を余儀なくされた。  

関係者によると、シェフチョビッチ氏は中国の化学製品や機械製品に対し、一連の懲罰的関税を課す計画であり、大規模な輸入急増の抑制を狙っている。  

今年4月、シェフチョビッチ氏はルビオ米務長官と覚書を締結し、重要鉱物の安全保障協力を強化した。  

計画によれば、この法案はまだ初期段階にあるが、5月29日にEU委員会へ提出され、協議・討論に付される予定である。6月下旬のEU首脳会議で加盟国首脳の支持を得る可能性もある。  

「中国ショック2.0」が欧州産業に与える影響

貿易アナリストや業界関係者は最近、欧州が直面する「中国ショック2.0」が現地工場の存続を脅かし、さらには中共による欧州産業の「事実上の植民地化」を招く可能性があると警告している。  

これは25年前に米国が経験した危機を想起させる。当時、中国のWTO加盟により輸入が急増し、「中国ショック1.0」によって国内産業が圧迫され、最大250万人の雇用が失われた。  

中国欧州商会の北京会長イェンス・エスケルンド(Jens Eskelund)氏は英紙『ガーディアン』に対し、一般には電気自動車(EV)などの完成品に注目が集まりがちだが、本質的な問題はサプライチェーン内部に存在する膨大な部品にあると指摘した。「ある意味で、欧州の対中依存は日ごとに強まっている」と述べた。  

データはこの依存の深さを示している。貿易分析サイトSoapboxが5月中旬に発表したデータによれば、調味料や医薬品に広く使われるアミノ酸分野では、金額ベースでEUの対中輸入比率は52%であるが、数量ベースでは88%に達する。また、プラスチック、化粧品、塗料に使われる多価アルコールでは、数量ベースの比率が96%にまで上る。  

同サイトの貿易顧問は、リスクは単に安価な輸入品そのものにあるのではなく、低価格供給によってEU域内の生産採算性が失われ、その結果、限られた代替供給源への依存が強まる点にあると指摘した。  

ドイツ機械工業連盟(VDMA)の対外貿易担当責任者オリバー・リヒトベルク(Oliver Richtberg)氏は、中国製品の低価格は大規模な国家補助と、30〜40%過小評価されている人民元の為替レートによるものだと述べた。  

リヒトベルク氏は、品質が同等水準の約95%で、価格が30〜50%安い製品が供給された場合、購買側は合理的判断として他の選択肢を取りにくいと強調し、これこそが欧州産業に打撃を与えている要因であると指摘した。  

ドイツ製造業の雇用減少と競争力低下

欧州経済の牽引役であるドイツは、この衝撃の中心に位置している。欧州の政策シンクタンク「欧州改革センター(CER)」は5月、「中国ショック2.0:ドイツの自己満足の代償」と題する報告書を発表し、「ドイツは依然として躊躇している。中国がドイツ産業の昼食の大半を奪い、今や夕食にも手を伸ばそうとしているにもかかわらず」と厳しく警告した。  

データによれば、中国の対ドイツ貿易黒字は2024年から2025年にかけて120億ドル(約1兆8000億円)から250億ドル(約3兆7500億円)へと倍増した。同期間、中国の対独輸出は1180億ドル(約17兆7000億円)に達した一方、ドイツの対中輸出は930億ドル(約13兆9500億円)に減少した。  

さらに、2019年以降、ドイツは約25万人の製造業雇用を失っており、特に自動車産業での減少が顕著である。2024年から2025年の間だけでも約5万1000人の雇用が失われた。  

CERの報告は、中共が推進する「1万の小巨人」政策が、ドイツの競争力の中核である中小企業エコシステムを精密に標的としていると指摘した。  

また報告は、ドイツ政界が経済的困難をエネルギー価格や官僚主義のせいにする一方で、中国要因を軽視していると批判し、これを「幻肢痛」に例えた。すなわち、失われた輸出需要という“手足”が、中国からの強大な圧力によって切断されたにもかかわらず、その原因を直視していないという指摘である。  

欧州対外関係評議会のアジアプログラム責任者アンドリュー・スモール(Andrew Small)氏は、これはすでにドイツの安全保障問題に発展していると指摘した。EUがこれまで講じてきた措置は輸入規模に比して不十分であり、中共は遅延戦術を取りつつ、欧州産業が反撃能力を失うまで輸出を継続しようとしているとの見方を示した。  

中国EVの急拡大と欧州市場の変化  

フォルクスワーゲンの本拠地ヴォルフスブルクや、産業の中核であるシュトゥットガルトなど、ドイツ自動車産業の中心地は、同国の機械工学と工業力の象徴である。しかし現在、これらの地域では競争環境の変化が顕著となっている。  

ベルリンの自動車アナリスト、マティアス・シュミット(Matthias Schmidt)氏によると、2026年第1四半期、西欧市場における中国車のシェアは8.6%に達し、前年同期のほぼ2倍となった。  

そのうち、中国のEV・ハイブリッド車の対欧販売額は、2025年第1四半期の110億ドル(約1兆6500億円)から、今年同期には206億ドル(約3兆900億円)へとほぼ倍増した。この数字は、中国のEV輸出総額の約3分の1を占める。  

英国、ノルウェー、スイスなどを含めると、欧州全体で中国EV販売の42%を占める。  

EUはすでに一部の中国EVブランドに対し最大35.3%の反補助金関税を課しているが、為替変動がその効果の一部を相殺している。  

一方、『ガーディアン』の報道によれば、欧州の一部自動車メーカーは過剰生産能力に直面し、「狼を招き入れる」選択をしている。日産、フォード、ステランティスなどは、工場閉鎖や人員削減を回避するため、欧州の遊休工場の生産能力を中国の奇瑞(Chery)、吉利(Geely)、零跑(Leapmotor)などに売却または提供することを検討、あるいはすでに合意している。  

一方、中国の新興メーカーは強い勢いを見せている。小鵬汽車の北東欧地域マネージングディレクター程暁光氏は、5月の会議でドイツの老舗メーカーが提供する工場について「やや古い」と評価した。BYDの執行副総裁、李柯氏はブルームバーグに対し、自社は独立運営を望んでいると述べ、「他社の許可を得るのは非常に難しい。我々にはそのような発想はない。我々は極めて迅速で、5分で意思決定が可能だ」と語った。  

BYDはハンガリーで大型自動車工場の試験生産を間もなく開始する予定であるが、このプロジェクトはEUの労働法および環境法違反の疑いで複数の指摘を受けている。  

産業主権を巡るEUの戦略と課題  

2025年、中国は過去最高となる1兆2000億ドル(約180兆円)の世界貿易黒字を記録し、この巨大な流れはEUの耐性を試している。2026年第1四半期には、中国のEV輸出が対欧黒字を過去最高の830億ドル(約12兆4500億円)に押し上げた。このうち、中国の対欧輸出総額は約1480億ドル(約22兆2000億円)、輸入は650億ドル(約9兆7500億円)にとどまり、2025年通年では黒字は3600億ユーロ(約61兆2000億円)に達した。  

EU委員会が今年3月に提案した「産業加速法(IAA)」の根本目的は、「メイド・イン・ヨーロッパ」を再興し、EUのGDPに占める製造業比率を2024年の14.3%から2035年までに20%へ引き上げることである。  

中共はEUのこうした動きを「保護主義」と批判し、「対抗措置」を取る可能性を示唆している。  

今年2月、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、この大きな貿易格差は「健全ではない」と述べ、「過去5年間で4倍に拡大した」貿易赤字の縮小を望むと表明した。  

現在、EUには「産業加速法」や改訂版「サイバーセキュリティ法」などの提案があるが、施行は最短でも2027年以降と見込まれており、今月29日の協議・討論プロセスの重要性が一層高まっている。  

アナリストによれば、加盟国産業の緊急対応策を巡り、EU当局者は大きな圧力に直面している。欧州は今、脱工業化の瀬戸際に立たされる中で、産業主権と経済主導権の回復を迫られている。

程木蘭
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