中国学術界の論文不正 元博士課程学生が語る「成果収奪」の実態

2026/05/29 更新: 2026/05/29

「ここでは、私はただの捨て駒にされるだけだ。私はその捨て駒にはなりたくない」

中国科学院のある研究所で博士課程に在籍していた向明さん(仮名)は、そう語った。

すでに中国を離れ、海外に渡った向明さんは大紀元に対し、「私はここ(の研究環境)に期待していない。少しでも何かを生み出せば、すぐに周囲に取り込まれ、本人の手元には残らないからだ」と述べた。

さらに、「中国国内の同僚のほとんどは、『寝そべり』状態だ。成果を奪われたくないからだ。多くの若者が『寝そべり』を選ぶのと同じで、あの環境ではそれが自分の利益を守る最善の選択なのだ。普通の人間にどんな前途があるのか。この体制の下で、ただ食いつないでいるだけだ」と話した。

「耿同学」さんが告発 5人の著名学者に論文不正疑惑

中国で学術不正を追及するブロガー「耿同学」さんは最近、1か月余りの間に、著名大学4校に所属する院長級の学者5人について、名前が掲載された論文に不正の疑いがあると相次いで告発した。

告発された学者はいずれも、中国の生命科学分野で権威ある人物。

同済大学生命科学技術学院院長の王平、南開大学生命科学学院院長の陳佺、中山大学腫瘍防治センター実験研究部副主任の康鉄邦、中山大学生命科学学院副院長で国家傑出青年科学基金の受給者である鄺棟明、上海大学転化医学研究院院長の蘇佳燦である。

この告発は、中国の学術界に大きな波紋を呼んだ。官製メディアも調査に乗り出し、記事で、これらの学者が関わった多くの論文データについて「粗雑」「荒唐無稽」などと批判した。また、問題の背景には「名義貸しの横行」や「審査体制の不備」があると指摘した。

現在、関係する大学は調査を開始している。同済大学の王平は、不正疑惑のある論文に署名していたことを理由に院長職を解任された。同論文の筆頭著者である金佳麗も、研究院との雇用関係を解除された。

学術界に広がる不正 「学術スター」作りと資金獲得

中国科学院で博士課程に在籍していた向明さんは、中国本土の学術界にある不正の構造についてさらに証言した。

「少しでも彼らに役立つものを生み出せば、すぐに奪われる。指導教員や上層部を共著者に加えないことなどできない。『大局』を重んじろと言われ、従わざるを得ないのだ」

向さんによると、博士課程の同僚の一人は「公費共同養成」の枠を得て、イギリスで半年間研究を行った。しかし帰国後、指導側に実験データも、論文の著者としての立場も奪われたという。

向さんは「この体制では、少しでも成果を出せば、すぐに取り上げられる。論文を発表するには、指導教員の同意が必要だ。指導教員が、その論文は発表できると判断すれば、自分にとってより重要な人物の業績にするため、その論文を取り上げてしまうのだ」と語った。

また、中国の学術界には現在、「学術スター」を作り上げる特有の現象があると指摘する。

「一部の研究者にあらゆる優位な資源を集中させる。目的は、研究資金を引き出すことだ」

向さんはさらに、「中共統治下では、どの業界も本質的には同じだ。やり方が変わるだけで、構造は変わらない。いわゆる『学術スター』とは、すべての資源を集中して作り上げられた存在にすぎない。彼らは普通の人の利益がどうなるかなど気にしない。人間の利己性が、この体制の下で際限なく増幅されているのだ」と述べた。

近年、中国では複数の女性博士課程学生が、指導教員からセクハラを受けたとインターネット上で告発している。学術界の閉鎖的な体質が改めて問われている。

中国人博士課程学生に外国人留学生の論文代筆を強要か

向さんによると、指導側は博士課程学生が苦労して完成させた研究成果を奪うだけではない。中国人の博士課程学生に、外国人留学生の博士論文を書かせることもあるという。

博士課程を修了するには、一定の要件がある。国際的に権威ある学術誌に1本または2本の論文を発表する必要がある。アフリカや中央アジアから来た留学生がこうした論文を発表できなければ、博士課程を修了できない。

「これらの外国人学生が中国科学院傘下の国内研究所で博士課程に入っても、研究水準は十分ではない。博士論文でさえ、中国人が代わりに書いている場合がある」と向さんは話した。

向さんは、中国科学院が水準に達していない外国人留学生を受け入れ、修士や博士として「育成」する目的について、中共が「政治的な橋渡し役」を育てるためだと見ている。

「彼らは帰国後、中国で取得した学位を足がかりに、母国で一定の地位を得ることができる。その後、中共に利用されるのだ」

中共官製メディアの報道によると、「一帯一路」に伴い、沿線国から中国へ留学する学生は大幅に増加した。外国人留学生全体に占める割合は、すでに6割を超えているという。

現在、中国にいる外国人留学生は約50万人に上る。そのうち、学位取得を目的とする学生の割合は半数を超えている。以前は中国語学習を目的とする学生が多かったが、近年は状況が変わっている。中共当局は、外国人留学生向けに特別奨学金も設けている。

「中共の言葉は一つも信じない」

告発を行った「耿同学」さんは、かつて北京航空航天大学生物医学工程学院の博士課程学生だった。本人によると、研究成果を搾取され、指導教員に卒業を先延ばしにされた末、退学を余儀なくされた。その後、学術不正を追及する活動を始めたという。

向さんは、「こうした不利益を受けるのは、いつも現場で成果を出そうとする人たちだ。コネも背景もない普通の人間だ。学術成果は、簡単に取り上げられてしまう。指導教員や上層部に対して、何もできない。唯一できることは、論文を書かないことだ。奪われるものを、こちらから差し出さないようにするしかない」と語った。

「損得を考えた結果、『寝そべる』ことも自分の利益にかなう選択だった。残る道は、逃げるか、寝そべるかのどちらかだ。私は逃げた。そうすれば、これ以上、彼らに搾り取られることはない」

海外に出た向さんは、ようやく胸の内を語ることができたという。

「私は彼らを本当に見透かした。中共の関係者の言葉は、一言一句信じていない。本当のことなど一つもない」

「中共に救いはない。倒す以外にない。その害は、がんのように体全体に広がっている」。

洪寧
中国語大紀元の記者。
程雯
関連特集: 社会問題