中国 なぜ誰も助けなくなったのか

善意が報われない国 親切に乗せた高齢者から恐喝=中国

2026/06/28 更新: 2026/06/28

「暑い中で困っているなら助けよう」

そんな善意が思わぬトラブルを招き、中国で大きな話題となっている。

河北省唐山市で5月31日、トラック運転手の蒋(しょう)さんは、国道で信号待ちをしていた際、70歳近い男性から「途中まで乗せてほしい」と頼まれた。暑い日だったこともあり、蒋さんは好意で車に乗せ、約40キロ送った。

ところが目的地まで残り約2キロとなった時、男性の態度が突然変わった。

男性は「お前に車でぶつけられた。金を払えば警察には言わない」と主張し、「払わなければひき逃げとして通報する。免許も取り消されるぞ」と脅したという。

しかし蒋さんが「車内には前後左右を映す監視カメラがあり、すべて録画されている」と伝えると、男性は事故の主張を引っ込めた。ところが今度は現金を執拗に要求し、約30分間にわたって押し問答が続いた。ようやく車を降りた後も車の周囲をうろつき、再び当たり屋を狙っているような様子を見せた。

蒋さんは後に中国メディアの取材に対し、「善意がこんな形で返ってくるとは思わなかった。ただ助けただけなのに」と肩を落とした。

この出来事は中国のSNSでも大きな反響を呼んだ。

「こういう人がいるから誰も助けなくなる」「善意を踏みにじっている」「本当に困った人まで助けてもらえなくなる」といった声が相次いだ。

また、「問題は一人の老人ではなく社会全体だ」「正直者が損をし、ずるい人が得をする風潮が広がっている」との指摘も多く見られた。

中国では近年、わざと車にぶつかって示談金を狙う「当たり屋」や、倒れた高齢者を助けた人が逆に加害者扱いされ、治療費や慰謝料を要求される事件がたびたび報じられている。その積み重ねが、「助けないほうが安全だ」という空気を生み出している。

人を思いやり、困っている人を助け、誠実に生きることは、古くから中国で美徳とされてきた。儒教や仏教、道教も、そうした道徳を何より大切なものとして教えてきた。

しかし、中国共産党が政権を握った後、階級闘争や相互監視が社会に持ち込まれた。文化大革命では伝統的な価値観や信仰が徹底的に破壊され、人々は「徳」よりも「利益」を優先する生き方へと追い込まれていった。

こうした事件が起きるたび、多くの人が怒りを覚えるのは、金を要求されたことだけが理由ではない。困っている人を助けようとした善意が、利用され、踏みにじられるからである。

善良であることが損になり、親切が危険になり、他人を疑うことが身を守る手段になった社会。

「善良な人が生きにくい社会になってしまった」。これは今回だけの声ではない。善意が踏みにじられる事件が起きるたび、中国のネット上には繰り返し投稿される言葉である。その一言が、多くの人が感じている社会への失望を物語っている。

李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!
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