今年夏、1か月足らずの間に「世界AI大会」と「世界ロボット大会」が上海と北京で相次いで開かれた。その間、トランプ政権は「外国製の先進ロボット設備」を国家安全保障上の規制対象に加えると発表した。8月17日には、ホワイトハウスが2025年にトランプ氏が発表した「国家安全保障戦略」を具体化する「国家安全保障科学技術戦略」を公表した。
米中のAI競争は、モデルの性能や計算能力を競う段階から、自律システム、宇宙、水中技術までを含む国家安全保障上の競争へと広がりつつある。
専門家は、AIを巡る軍備競争について、「誰がより速く計算できるか」ではなく、「誰がよりうまく統合し、幅広く活用し、素早く対応できるか」を競う段階に入ったと指摘する。
先端半導体や高度な計算能力、中核設備では、現時点でアメリカが優位に立つ。次の重要な競争の舞台として浮上しているのが宇宙だ。
AI競争 計算能力から「統合・活用・対応力」へ
AIを巡る軍備競争について、台湾の航空宇宙科学者、陳彦升氏は大紀元の取材に対し、AI訓練センターの数や計算能力だけを競うものではないと指摘した。
重要なのは、AIを「管理者」として機能させられるかどうかに加え、情報網がどれだけ充実し、正確であるか、相手が把握していない情報まで入手できるか、さらに全体としてどれだけ効率よく実行に移せるかだという。
台湾国防大学政治作戦学院の元院長、余宗基氏も、AIは戦場の情報を高速で分析し、目標を特定して判断を下せると説明する。そのため、AIを巡る軍備競争は単なる「計算速度」の勝負から、「統合力、活用力、対応力」を競う段階に移っているという。
「AIの計算能力そのものが国力を示す指標になっている」
律芯科技のCEO、薛宗智氏は大紀元に、以前なら1週間、場合によっては1か月かかっていた作業が、現在では10分ほどで終わることもあると語った。
薛氏は、AIが新たな大規模産業変革を引き起こしているとみる。将来、量子コンピューターが実用段階に達すれば、さらに「量子革命」とも呼べる変化が起き、AIは量子技術の発展を支える重要な基盤になる可能性がある。
米中競争の本質は、AIを活用して社会全体の効率や生産力、業務速度をどこまで高められるかにあると指摘した。
BBCは最近、AIの「頭脳」に当たる分野では、大規模言語モデルや先端半導体などでアメリカが依然として優位に立つ一方、中国はAIの「体」に当たる分野、特に人型ロボットで強みを持つと報じた。
これについて陳氏は、今後の競争では単に強力な「頭脳」を持つだけでは不十分だと指摘する。AI、情報、ハードウェア、各種システムを実際に連携させられるかどうかが重要になるという。
人型ロボットは、人間の労働を代替する可能性が高い「AI搭載ハードウェア」であり、国家の生産力、治安、防衛力にも直接影響を与える。人間に近い、あるいは人間を上回る能力を持つロボット技術をいち早く確立した国が、次の産業革命と国力の飛躍を主導する可能性があるとした。
AI発展を支える半導体と電力
BBCによると、AI発展を支える重要な基盤は半導体と電力だ。半導体を電力で動かすことで計算能力が生まれ、その計算能力は「AI時代の石油」とも呼ばれている。
ここには米中それぞれの強みと弱みが表れている。中国は先端半導体と資金面で制約を受ける一方、アメリカは電力供給や、データセンター建設に対する地域住民の反対などの課題を抱えている。
リスク管理コンサルティング会社ユーラシア・グループのディレクター、シャオモン・ルー氏はBBCに対し、アメリカでは一部の州で電力網の老朽化が進み、データセンターの拡張にも地域社会から反対の声が出ていると説明した。
一方、中国の発電量はアメリカの約2.5倍に達し、電力供給では中国が優位に立っているという。
一方、日本は安全保障上重要な技術の海外流出を防ぐため、技術管理を強化している。8月16日には、経産省が海外への技術移転に事前報告を求める対象を拡大し、半導体材料や永久磁石、ペロブスカイト太陽電池などに関する技術を追加した。余氏は、これは事実上、日本による中共への制裁だと指摘する。日本が輸出を制限すれば、中共による先進兵器の開発は大きく遅れるとの見方を示した。
AIも同様で、アメリカによる中国向け先端半導体の輸出規制は、中国のAI開発全体を遅らせる可能性がある。そのため、先端半導体、高度な計算能力、中核設備を総合すれば、現時点ではアメリカが優位に立っているとした。
米中AI競争 先端技術では米国が優位
米中のAI開発には、現在どれほどの差があるのか。
2022年にOpenAIがChatGPTを公開した当時、業界では米中のAI開発には約2年の差があるとの見方があった。
2025年に中国のDeepSeekが「R1」を発表すると、米資本市場にも衝撃が広がり、その差は約1年まで縮まったとの見方が出た。
さらに今年7月、中国のMoonshot AIがKimi K3を発表すると、一部では米中の差が4~9か月程度まで縮小したとの分析も出ている。中国がすでにアメリカに追いついたのかが注目されている。
薛氏は米中のAI競争を自動車レースに例え、アメリカはフェラーリやランボルギーニのような「最高性能のレーシングカー」を持っていると説明する。
一方、「何か月の差」という表現自体は主観的だと指摘する。AI開発には明確なゴールがなく、どちらのAIが絶対的に優れているかを判定できる第三者もいない。ただ、中国が急速にアメリカを追い上げていることは確かだとした。
余氏は、中国のDeepSeekやKimi K3が一部の性能でアメリカのモデルに迫った背景には、NVIDIAの先端半導体の利用に加え、モデルの「蒸留」などの技術によってソフトウェアを最適化し、コストを抑えていることがあると指摘した。
また余氏は、「蒸留」について事実上の窃取に当たるとの見方を示した。
一方、先端半導体そのものでは、依然としてアメリカが重要な優位性を握っているという。
中国は中・低水準の計算能力や、EVなどAIの実用分野では強みを持つが、高性能・先端計算の分野ではアメリカがなお先行しているとした。
分析:宇宙がAI軍備競争の次の舞台に
8月17日、ホワイトハウス科学技術政策局は「国家安全保障科学技術戦略」を発表した。2025年にトランプ氏が公表した「国家安全保障戦略」を具体化するものだ。
薛氏によると、24ページの戦略文書では、半導体やサプライチェーン、製造業を主要テーマとするのではなく、三つの分野に重点を置いている。
一つ目はAIを使った自律システムで、自律飛行やナビゲーション、航行などを含む。二つ目は水中分野で、潜水艦の生存性や対潜水艦戦などが対象となる。三つ目は宇宙で、地球周回軌道から月までの空間を対象としている。
薛氏は「この報告書が示しているのは、アメリカがAI競争を国家安全保障の問題として位置づけたということだ」と述べた。
余氏は、次の主要な競争の舞台は宇宙になるとみている。
AIを活用した作戦には大量のセンサーと各種パラメーターが必要であり、多くのデータを確保するほど、計算結果や作戦モデルを実際の戦場に近づけることができるためだ。
「現在、世界で最新のドローン向けソフトウェアを開発するには、ウクライナでの実戦データが欠かせない」
余氏はウクライナには実戦から得られた膨大なデータが蓄積されていると説明した。今後は、こうしたデータを取得できるかどうかを左右する重要な領域として、宇宙の重要性がさらに高まるとみている。
今後の米中競争は宇宙作戦にも広がり、「宇宙空間のセンサー、プラットフォーム、通信で優位に立った側が、地上戦の行方を左右する」と指摘した。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。