8月24日、米空軍傘下の中国航空宇宙研究所(CASI)は、西側の数百の企業や大学、研究機関が2015~25年、中国共産党(中共)軍や国防研究機関と交流・協力していたとする報告書を発表した。極超音速ミサイルや潜水艦、電子戦、先進レーダーなどに応用可能な技術も含まれており、安全保障上の懸念を指摘している。
報告書は「中国国防研究所の世界的な足跡 外国機関との接触と協力」と題し、米調査会社BluePath Labsが作成した。
研究チームは、中共の国防科学技術重点実験室98施設が公開した資料を調査。過去11年間に、西側の機関と中共の軍事研究所との間で行われた訪問、研修、会議、研究協力などを整理した。
報告書は、中共の軍事・国防研究機関と交流した外国機関426か所を挙げた。このうち123か所はアメリカの機関だった。また、中共の国防研究所と外国の機関や個人との間で行った交流・協力について、131件の事例を詳しく取り上げている。内容には、軍民両用技術や軍事用途に直接関わる技術の交流も含まれる。
報告書は「西側の研究機関と中国の軍事研究所とのこうした交流は、軽く見ても懸念すべきものであり、深刻な場合には重大な安全保障上のリスクとなる」と指摘した。
さらに「一見すると問題が小さい事例であっても、中国(中共)軍向けの新技術開発を主な目的とする組織が、有用な技術や知識を得る機会になり得る」と警告している。
一方、報告書は、名前が挙げられた機関が意図的に法律に違反したり、中共軍を支援していると認識した上で協力したりしたことを意味するものではないと強調した。また、一部の協力関係については、すでに終了したのか、現在も続いているのか確認できないとしている。

軍事転用可能な技術にも交流
報告書によると、外国機関と中共の軍事研究機関との交流は幅広い技術分野に及び、一部は中共軍の先進兵器開発に利用される可能性がある。
具体的には、極超音速ミサイルの推進技術やラムジェットエンジン、防空・ミサイル防衛網を突破する弾道ミサイル技術、飛行制御システム、ジェットエンジン、潜水艦の音響・流体力学、電子防護技術、航空宇宙用複合材、先進半導体製造などを挙げている。
このほか、精密誘導や標的捕捉、先進レーダー、水上艦艇のステルス技術に関する研究も含んていた。
これらの技術には民間利用が可能なものもあるが、中共軍の近代化やミサイル開発、宇宙戦、電子戦、海軍力の強化にも直接関係すると報告書は指摘している。
米企業・大学との協力事例も
報告書は特に、「中国とアメリカを含む外国の軍事教育機関、国防企業、国防研究機関との間に多数の交流を確認したことは、とりわけ懸念される」と指摘した。
そのうえで、米企業や大学が中共の軍事研究機関と関わった複数の事例を挙げている。
米航空宇宙大手ハネウェルは2018年、中共の国防関連研究機関と、フライ・バイ・ワイヤを含む航空機の飛行制御システムの開発で協力した。2024年には、先進航空電子技術について交流した。報告書は、こうした技術が軍事利用につながる可能性を指摘している。
ネットワーク機器大手シスコ(Cisco)についても、中共の軍事通信研究所との協力関係を記録している。同研究所は、軍用通信の妨害耐性を高める技術を研究している。
同研究所はさらに、インテル、シーメンス、ノキア、NTTドコモ、フィリップス、フランステレコム、LG、STマイクロエレクトロニクスなど、欧米やアジアの企業と協力してきたと公表している。
極超音速技術をめぐっては、2021年、中共の「極超音速ラムジェット技術国防科学技術重点実験室」が学術会議を開催した。参加者には、米オクラホマ州立大学やラトガース大学の研究者のほか、カナダ、ポルトガル、ロシア、シンガポール、スウェーデン、イギリスなどの専門家が含まれていた。
同じ2021年には、テネシー大学ノックスビル校が、中共ロケット軍の研究機関に属する「弾道ミサイル防衛網突破技術」の重点実験室と関係する研究に参加した。同実験室は、敵側の防空・ミサイル防衛システムを突破する技術を研究している。
また、潜水艦など水中軍事装備の音響技術を研究する中共軍の研究所が、アメリカの9大学の関係者が参加する会議を主催した事例も挙げた。
報告書によると、こうした交流に関わった中共の軍事機関の多くは、米商務省の「エンティティー・リスト」に掲載され、輸出規制などの対象となっている。
米大手企業や有力大学も名指し
報告書には、ハネウェルやシスコのほか、ベル研究所、IBM、インテル、航空機エンジン大手プラット・アンド・ホイットニーなども掲載している。
大学では、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン大学、コロンビア大学、テネシー大学ノックスビル校などの名前を挙げた。
米政府機関では、エネルギー省、空軍研究所、陸軍研究所、空軍科学研究局、全米科学財団などを掲載している。
他には、オーストラリア、イギリス、カナダ、オランダ、スウェーデン、ドイツ、フランス、日本、イタリア、韓国などの機関と中共の軍事研究所との交流も確認された。
中共側では、旧戦略支援部隊に関連する機関、中国空気力学研究開発センター、北京航天飛行制御センター、軍事科学院、海軍研究院、ロケット軍研究院、中国人民武装警察部隊警官学院などを挙げている。
旧戦略支援部隊は、サイバー戦や宇宙戦、情報戦などを担っていた。
学術交流が規制の「抜け穴」に
報告書は、リスクは正式な技術輸出や直接的な軍事協力だけに限らないと指摘した。学術会議や研究者向けの研修、共同研究センター、長期的な研究プロジェクトなどを通じても、知識や技術が移転するためだ。
研究チームによると、中共の国防・軍事機関が学術・民間研究を名目に会議を開催し、軍との関係を分かりにくくしているケースがある。このため、外国の研究者や企業、大学は相手側の軍事的な背景を把握しにくい。
報告書は、こうした学術交流が、西側諸国による技術や知識の移転規制の抜け穴になっていると指摘した。
さらに、中共の「軍民融合」政策の下では、民間の研究機関や企業も国防・軍事研究に組み込まれるとしている。
協力先が表向きは民間の研究機関であっても、そこで得られた技術やデータ、人材が中共軍の兵器開発に利用される恐れがあると報告書は警告している。
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