中国の文化観光省は7月31日、北京、上海など47都市から台湾への個人旅行を許可する「自由行通行証」の発行を8月1日付で全面的に停止すると発表した。中国当局は来年1月の台湾総統選に向け、蔡英文政権への圧力を一段と強めたとみられる。台湾の学者は、背後に香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐる抗議デモも影響していると指摘した。
総統府の黄重諺報道官は同日の記者会見で、中国当局の措置は台中双方の交流を妨げたとし、「遺憾だ」と述べた。
行政院(内閣)のKolas Yotaka(グラス・ユタカ)報道官は、「覇権主義の中国当局は、台湾と中国の交流を制限するだけでなく、中国国民の行動の自由まで制約し、台湾を知る権利を奪った」と非難した。
与党民進党党首の卓栄泰氏は、「台湾で選挙が行われるたびに、中国当局は圧力をかけてきた」と批判した。卓氏は、中国が台湾の観光業をはじめ、経済に打撃を与えることによって、来年1月の選挙で、再選を目指す蔡英文総統を不利な局面に陥らせようとしているとの見解を示した。
交通観光局の統計によると、今年上半期、訪台した中国人観光客は167万人で、昨年同期比約3割増となった。同局は、このペースで増えれば、今年10月までに約320万人の中国人観光客が見込まれると推測していた。前回の総統選が行われた2016年の下半期以来最多となる。団体旅行と比べて、個人旅行の方が多いという。
一方、台湾の国立政治大学の国家発展研究所所長を務める李酉潭氏は、総統選のほか、台湾メディアが現在進行中の逃亡犯条例改正案に反対する香港デモを積極的に報道していることも、中国当局にとって懸念材料になっていると指摘した。
「中国共産党政権は、国民に香港デモに触れてほしくない。当局は、デモが国内に飛び火すると危惧している」
香港市民が6月以降、同改正案の完全撤廃を要求する抗議デモを行い続けてきた。台湾の蔡英文総統は公の場で複数回、香港市民への支持と、中国当局が掲げる「一国二制度」に反対すると明言した。
7月27日、NHKの取材に応じた蔡総統は、「『きょうの台湾』が『あすの香港』になることを希望する」と述べ、香港では台湾のように民主主義や言論の自由が保障されることが重要だと強調した。
NHKは、香港デモは現在、民進党の追い風となっており、蔡政権の支持者が増えているとの見方を示した。
台湾市民は現在、香港デモの参加者が着用するヘルメットを多数寄付している。また、中国当局が、国内のネット通販サイトに対して、香港へのヘルメットなどの発送を禁止したと報じた。
(記者・呉旻洲、翻訳編集・張哲)
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