中共ウイルス(新型コロナウイルス、COVID-19)が世界的に流行し、各国が対応に追われる緊急時のなか、中国共産党政権は体制維持のための利益を探っている。一部の報道によれば、軍との繋がりの強い大手通信機器・華為技術(ファーウェイ)の5G機器の契約を引き換えに、マスクを供給するとの交換条件を付けている。
中国共産党は、マスクや医療資源の輸出制限を外交手段にすることを憚らない。中国共産党機関紙の環球時報は、中国のアナリストの発言を引用して伝えた。「中国はいつでも、米国に対して、マスクや他の医療機器の輸出を禁止することができる。華為技術の機器販売を制限する米国の動きは、COVID-19流行の中で裏目に出るかもしれない」
華為技術の副会長兼輪番会長であるエリック・シュー(徐直軍)氏は、米国が中国のハイテク企業に圧力をかけることは、北京からの報復行動に発展し、世界の産業にダメージを与えるかもしれないと警告した。このCEOの発言から、報復の用意があることがうかがえる。
中国は、医薬品やマスク、検査機器などの重要なサプライチェーンが寸断され、各国が医療資源を切望していることをよく知っている。
中国共産党政府は2月、全国でマスクの拡大と増産を推進した。2月29日までの中国のマスク生産量は、1月の12倍の1億1600万枚となった。ウイルス肺炎の発生前、世界の医療用マスクの半分は、中国で製造されていた。モルガン・スタンレーの推計によると、中国は世界のマスク生産能力の85%を占める。
4月6日、中国国務院は記者会見で、医療物資の輸出データについて発表した。それによると、3月1日~4月4日までに中国から輸出された感染対策物資は102億元(約1570億円)相当に達した。内訳は、マスク約38億6000枚の77億2000万元(約1190億円)、防護服3752万着の9億1000万元(約140億円)、赤外線体温測定器241万個の3億3000万元(約51億円)だという。
中国は、米国や欧州でウイルス肺炎の流行が深刻化した約1カ月間、マスクだけで約1190億円の輸出収入を上げた。
世界を分離する試み
中国共産党は、ウイルスを食い止めようと奮闘する各国の様子を伺い、自由主義国や米国同盟国との間に生じる隙を最大限に利用して、分離しようとする試みさえ行っている。
例えば、カナダは米トランプ政権が、N95マスクのカナダとラテンアメリカへの輸出停止を示唆したことで、トルドー首相はトランプ大統領を批判した。この機に、中国の華為技術はカナダに数百万枚のマスク支援および輸出を行った。トルドー首相は、この寄付受け入れは、政策に影響しないと語っている。しかし、中国共産党は、華為技術CFOの孟晩舟氏の拘束で冷え切った両国の関係を温め、カナダにおける5G配備と華為技術の進出の足掛かりにしようとしている。
フランスでは、露骨な抱き合わせ条件があったとの情報がある。FOXニュースに出演したマーク・グリーン米議員は電話会議のなかで交わされた、エマニュエル・マクロン大統領と習近平主席の最新の会談についての内容を明かした。それによると、フランスは華為技術の5G導入を約束をすれば、10億枚のマスクを含む医療機器の供給を行うと聞かされたという。しかし、在米フランス大使館は、こうした条件付きの取引はないと、議員の発言内容を否定している。
欧州は医療品の輸出入をめぐり、各国の関係性にひびが入りやすくなっている。4月3日、スウェーデンは、同国企業メンリッケ社(Molnlycke)が中国で製造したマスクや手袋数百枚が、フランスの物流地点で押収されたと批判した。この問題は、両国の外交問題に発展している。5日、スウェーデン政府の働きかけにより、出荷が可能になった。
フランス以外にも、ハンガリー、チェコ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スペイン、イタリアは、国が感染症対策のために使用する国内流通の製品を押収する権利を持つという緊急規則を導入している。スウェーデン外相アンナ・ハルベルク(Anna Hallberg)氏は、欧州の政治的圧力が高まっているが、各国は通常の物流を保護するよう呼びかけている。
不確実性の高い情報も流出している。4月3日、フランスの一部の地方知事が、「フランスが購入した中国のマスクを、米国が横取りした」と公的な場で発言した。AFPの取材に応じた匿名の米政府高官は「全くのウソ」と一蹴している。スロバキアの首相は、中国からマスクを購入するつもりだったが「ドイツがより高い金額を支払って取引した」とテレビインタビューで述べた。
こうしたウイルス肺炎蔓延という非常事態にあるなか、自由主義国間で生じた軋轢は、共産主義政権が漁夫の利を狙うかもしれない。また、医療資源のサプライチェーンを中国に依存してきたことで、中国による「マスク外交」の影響が浸透しやすい状況にある。マスクのみならず、コロナ・リセッション(景気後退)により株価の下がった企業が、安く買収される懸念も浮上している。
イタリアは、報道されている「債務トラップ」のリスクを顧みず、巨大経済圏構想「一帯一路」に参加表明したG7唯一の国だ。イタリアは、中国でウイルス肺炎流行が厳しいなか、個人用保護具(PPE)を寄付した。中国は返礼として、多くのPPEをイタリアに支援した。
しかし、イタリア北部では中国製造業者との取引が多く、中国本土との交易の多さは、欧州で最も感染状況を招いた一因とみなされている。
(文・佐渡道世)
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