世界的に拡大した中共ウイルス(新型コロナウイルス)により、中国依存のサプライチェーン(部品供給網)が停滞する問題が明るみになった。中国生産に依存することは、思わぬ人権侵害加担のリスクを呼ぶ。最近、オーストラリアのシンクタンクは、日本企業を含む数十社の強制労働加担の疑いを指摘した。
5月25日、安倍首相は緊急事態宣言の解除を発表した。記者会見では、生産における単一国の依存度を減らすかとの質問に対して、「依存度を減らしたサプライチェーン確保」を強調した。政権は5月初旬、単一国への生産依存度が高い製品は生産拠点の国内回帰を後押しする考えを示し、補助金制度などを発表している。
首相は、中国について「コロナ時代の世界で透明性と情報の共有といった国際的価値を中国も含めて築くべき」であり、「経済的に大きな影響力を持つ中国に、地域と世界に責任ある態度を期待する」と述べた。米国については、「安全保障や経済などさまざまな課題を解決する重要な同盟国」と例えた。
米トランプ政権は、現在、中国政府による技術や知的財産盗用問題に対応するため、サプライチェーンの中国排除に動いている。5月だけでも、ナスダック新規上場の審査厳格化、中国企業を念頭にした外国企業の経営透明性を求める法案を上院で可決させた。コロナウイルス情報の隠ぺいに対する不信感は、中国排除の流れを推し進めている。
米国のサプライチェーン中国排除や、日本企業の国内回帰を支援する安倍首相の動きとは異なり、日本経済団体連合会(日本経団連)からは、その流れに乗ろうとする積極性は見られない。「経済界の総裁」と揶揄される経団連会長職に就く、日立製作所会長の中西宏明氏は5月20日、NHK番組に出演し、海外に依存している生産の全ての分野を国内に移すのは困難だとの認識を示した。
経団連の中西会長が率いてきた日立製作所は、最近、中国を含むサプライチェーンのなかで人道犯罪の関与が疑われると、オーストラリアのシンクタンクが詳細な報告書のなかで指摘している。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は3月、ナイキ、アディダス、アップル、サムスンなど多国籍企業83社が、中国共産党政権が系統的に弾圧するウイグル人を労働力に加えるために、中国各地の工場に移送していると指摘した。そのうち11社は日本企業で、日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ、シャープをリストに載せた。
研究報告では、2017~19年にかけて8万人以上のウイグル人が、多国籍企業の下請け工場で労働を強いられていると推計した。国際的な人権団体や専門家は、新疆では150万人以上の少数民族が収容所に抑留されているとしている。
ASPIの報告を受けて、NPO法人日本ウイグル協会は日本企業11社に質問状を送っている。5月26日時点で3社が回答した。そのうちの1社である日立製作所は「行動規範や人権方針において、人権を尊重することを定め、それに基づいた事業活動を行っている。サプライヤーに対しては、CSR(企業倫理)調達ガイドライン等を配布し、強制労働等が発生することがないよう働きかけを行っている」とした。ユニクロを提供するファーストリテイリングは、ASPIが同社と関連付けた中国企業とは「取引がない」とし、同社調査においては人権侵害の報告はないと回答した。ソニーは、加盟する国際的なCSR関連組織と協力して、ASPIの指摘の件を調査すると回答した。
強制労働を含む中国生産ライン 知らぬ間に関わってしまう多国籍企業
中国国内の収容施設が、多国籍企業のサプライチェーンに関わっているとの指摘は以前からある。2019年、遼寧省馬三家労働収容所の内部の様子を捉えた映像が、元収監者により秘密裏に撮影された内容が公開された。動画によれば、収容者は、台湾電子機器の下請け工場の受注で、ひたすらゴムマットにダイオードをこすりつける作業を繰り返している。食事は粗末で、作業台の床で休む様子もみられる。この台湾企業の取引先には複数の日本企業の名が挙がっている。
撮影者は、12年間に渡り収容所に入っていた法輪功学習者の于溟さんで、米国の人権団体に提供した。撮影時期は2008年、中国でオリンピックが開催された年だった。華やかな「平和の祭典」の舞台の裏では、中国国内で非人道的行為が続いていた。
2019年にも、米国の非営利団体(NPO)中国人権組織・公民力量が、中国の綿花生産量の84%は新疆ウイグル自治区産だが、当局が「職業訓練」と称する集中管理施設にいる人々を、綿花産業に従事させているとした。ウォール・ストリート・ジャーナルは、新疆では「新疆綿」と呼ばれる世界三大綿のひとつが作られ、綿製品はナイキやディズニー、ユニクロ、無印良品といった国際的に著名な企業の製品に含まれていると指摘した。
ヘリテージ財団のアジア研究センター所属政策アナリストのオリビア・エノス(Olivia Enos)氏は過去、大紀元英文の取材に応じて、国際社会が中国の人権問題に取り組むために、いくつかのメカニズムがあると述べた。
まず、中国の強制労働や弾圧政策に、迫害加担者に経済制裁を課すグローバル・マグニツキー法を適応すること。強制労働により生産された製品ではないかを税関や経済担当省が連携して調査すること。そして、強制労働が関わった製品の輸入を停止する法律を定めること、などを挙げた。
米上院は5月14日、中国政府による新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧に関し、トランプ大統領に制裁発動を求める法案を全会一致で可決した。人権侵害に加担する組織を含めた33の中国企業と団体の禁輸リスト追加も発表している。ソフトバンク・グループが支援する人工知能開発のクラウドマインズや、ITセキュリティ大手の奇虎(チーフ―)360も含まれる。米議会がウイグル問題に本腰を入れるのは、新疆が、米国の安全保障を脅かしかねない共産党の監視や諜報システム、AI機能の実験場になっているからだとの見方もある。
ASPIは3月の報告書の巻末で、中国の生産現場における人権侵害の関与の可能性を指摘したうえで、「中国から製品を購入する企業と消費者にとって、国際的な評価においても、法的側面においても、新たなリスクをもたらす。新疆ウイグル自治区に限らず、中国のどの地域で作られた製品であっても、強制労働者の手を介している恐れがある」と書いている。
米政権のサプライチェーン中国排除に歩調を合わせられるか、日本企業の対応に国内外の注目が集まる。
(佐渡道世)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。