米国当局の発表よると、過去10年間にわたり米露関係で重要な役割を果たしてきた軍縮条約が延長されたことで、核兵器備蓄が増加している中国に対処する新たな道が開けた。また、今回の合意は世界最大の競合国間における平和維持に向けた米国の取り組みを浮き彫りにするものとなった。
2021年2月、米国とロシアは10年前に締結された新戦略兵器削減条約(新START)の失効間際にその5年間の延長に正式合意した。同条約の延長に伴い、両国の核戦力の配備数や保有数の制限が継続される。
ワシントン・ポスト紙の報道によると、アントニー・ブリンケン米国務長官は、「特に米露が緊張状態にあるからこそ、ロシアの核兵器に上限を設けることが死活的に重要となる」とし、「新戦略兵器削減条約の延長により、米国やその同盟・提携諸国だけでなく世界全体がより安全になる。無制限の核軍拡競争は世界を危険に陥れる」と述べている。
ブリンケン国務長官が「戦場核兵器」または「戦術核兵器」表現した条約適用外の小型核弾頭の保有数は米国よりもロシアのほうが多いが、今回の延長合意により、引き続き2026年までは、ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、重爆撃機に搭載する核弾頭の保有数に検証可能な制限を加えることができる。
在ロシア米国大使館・領事館は、「新戦略兵器削減条約により、約30分で米国に到達できる大陸間弾道ミサイルに搭載されるすべての核弾頭を含め、ロシアの大陸間核兵器の配備・保有数が制限される」とし、「ロシアの新たな長距離核兵器の中で最も運用上有用な『アバンガルド』と開発中の『サルマット』の2種類は両方共に米国へ到達可能であるが、同条約によりこうした兵器も制限される」と発表している。
しかし、条約延長に合意したからといって米国がロシアの不正行為を見逃すというわけではない。複数の報道によると、ロシアの野党「進歩党」のアレクセイ・ナワリヌイ党首の毒殺未遂事件と投獄、および米国のソーラーウィンズ製品を使用する米国企業や米国政府機関を狙った大規模サイバー攻撃への関与を理由に、ジョー・バイデン米政権は今後数週の間にロシアへの制裁を強化することを検討している。
ワシントン・ポスト紙の報道では、ドナルド・トランプ前政権は、中国を含めた米中露の3国核軍縮枠組の構築を提唱していたが、中国共産党当局が協議への参加を拒否した。
ブリンケン国務長官の発表によると、バイデン大統領は「ますます増加する中国の近代的核兵器による危険を抑制」するため、中国と軍備管理について協議を図ることに注力する構えである。
ワシントン・ポスト紙の報道では、同国務長官は、「米国は高価に付く危険な軍拡競争のリスクを削減しながら高い安定性、透明性、予測可能性を実現できる効果的な軍備管理に取り組んでいく」と話している。
核力と戦略力、軍備管理、不拡散計画を扱う米国上院軍事委員会・戦略兵力小委員会の筆頭委員であるデブ・フィッシャー米国上院議員は、新戦略兵器削減条約が締結されているに関わらず核の脅威は増大を続けていると述べ、中国による脅威を含め、世界諸国が直面しているさまざまな課題に対処するために一層の措置を講じる必要があると訴えている。
2021年2月下旬にフォックス(Fox)ニュース・ウェブサイトの「Opinion(意見記事)」に掲載された記事でフィッシャー上院議員は、「新戦略兵器削減条約の延長は、視点を合わせ直して新たな展望を描く重要な機会となる」とし、「米国は急速に成長していているロシアと中国の核力への対処に焦点を合わせる必要がある」と述べている。
在ロシア米国大使館・領事館の見解によると、核拡散防止条約により保有が認められている米露英仏中の5核保有国の中で、中国は「最も透明性の低い」国である。長年にわたり5か国の中では核備蓄が少ないと言われていた中国は、方向を転換して向こう10年間で備蓄を2倍以上に増やす目標を掲げている様子が伺える。
そのため特に米国としては、核リスクの削減と軍備管理に中国を巻き込みたい考えがある。 在ロシア米国大使館・領事館は、「中国が核兵器備蓄を大幅に増やすと予測されていることから、米国とその同盟・提携諸国にとって重要な懸念事項となる」とし、「核兵器とリスク削減に関する有意義な協議への参加を継続的に拒否する中国は、動揺の根源であると同意に、同国の意図にも疑問が呈される。 無制限の核軍拡競争の防止と安定性の強化を図るために、中国を含む世界諸国が核軍備管理体制を確立する必要がある。 米国はこの目的を見失ってはいない」と発表している。
(Indo-Pacific Defense Forum)
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