中国の李克強首相は5日、北京の人民大会堂で開幕した全国人民代表大会(全人代、議会に相当)で今年1年間の政府活動報告を行い、今年の経済成長率の目標は昨年の6%から引き下げて、「5.5%前後に設定する」と発表した。専門家は、中国当局はロシアのウクライナ侵攻による中国経済への打撃を過小評価していると指摘した。
李首相は政府活動報告のなかで、経済成長率目標のほかに、今年は都市部で1100万人以上の新規雇用を創出し、都市部の失業率を5.5%以内に抑え、消費者物価指数(CPI)上昇率を3%前後にすると表明した。
首相は「新型コロナウイルスの大流行が依然として続いており、世界経済の回復力が乏しく、原油を含むコモディティ(商品)の価格が高騰しているなど、外部環境はより厳しく、より不確実になっている」と話した。
また、首相は「(国内では)個人消費と投資の持ち直しのペースは緩やかで、輸出を安定させる任務が難しくなり、エネルギー原材料の供給も緊迫しており、中小・零細企業などは経営難に陥り、雇用安定の任務はより困難になった。また、一部の地方政府は財政難に陥り、経済金融分野でより多くのリスクに見舞われている」と述べ、今年の中国経済はより厳しい状況に直面すると示した。
匿名希望の香港人経済学者は7日、米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対し、李克強首相は1時間に及ぶ政府活動報告の中で、ロシアのウクライナ侵攻がもたらす経済的影響について「言及しなかった」と指摘し、「この報告は全く役に立たない」と批判した。
同専門家は、中国当局が今年の経済成長率目標を5.5%程度に設定したことは「一見、合理的に見える」が、欧米諸国がこのほどロシアへ経済制裁を科したことによってもたらされる影響を考慮していないとした。
「ロシアへの制裁で、原油、天然ガス、食糧、金属などの価格は急騰している。4日の欧州市場では、天然ガスの価格は20%急上昇した。ロシアとウクライナはともに世界最大の小麦輸出国である。ロシア産小麦が輸出できなくなると、食糧の国際価格も上昇する」
同専門家は、李克強首相の政府活動報告は「インフレ圧力を過小評価した」との認識を示し、「中国のCPI上昇率は3%ではなく、少なくとも7%になる」とした。
国際通貨基金(IMF)は1月25日、中国の今年の経済成長率は4.8%と予測した。
台湾の民間シンクタンク、元大宝華総合経済研究院の梁国源院長は、「経済学者やアナリストの間では、今年の中国経済は一段と鈍化するとの共通認識を持つ」と示した。同氏は、貧富の格差を是正する「共同裕福」政策、不動産企業への締め付け、ゼロコロナ政策など、中国経済の急失速は「当局が自ら招いた」と述べた。
中国国内の経済学者はVOAの取材に対して、「マクロ経済が下押し圧力に直面しているほかに、ロシアのウクライナ侵攻、中露と欧米の対立、南シナ海や台湾海峡などでの緊迫を含めて、中国経済の見通しは楽観視できない」と話した。
同学者は、中国当局が実施する予定の経済金融政策には大きな課題が残るとした。米連邦準備制度理事会(中央銀行)が3月以降、ゼロ金利政策を解除し、利上げに踏み切るとの観測が広がるなか、中国人民銀行(中央銀行)が景気刺激策として、預金準備率や政策金利を大幅に引き下げると、両国の金利差は拡大、中国からの資金流出が加速し、人民元も対ドルで大幅に下落する。
李首相は全人代で「今年、地方政府のインフラ投資を促すために『専項債』と呼ばれる債券の発行額を3兆6500億元とする」「地方政府の歳入を支えるために、中央政府からの資金給付は9兆8000億元に拡大する」と表明。
中国人経済学者は「資金は正しいところに使われなければ、浪費されるだけだ。そもそも中国の地方政府には債券を発行する信用力がない」と述べ、新たな金融リスクが生じるのではと懸念した。
(翻訳編集・張哲)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。