米国防長官と比国防相が共同で臨んだ2021年7月下旬の記者会見で、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領が東南アジアのフィリピン国内における米軍兵の法的地位について定める重要な「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」の破棄を撤回したと発表した。
フィリピン側が破棄を通知していた同協定は米比の間で懸案となっていた。
「訪問米軍に関する地位協定」は、軍事演習や有事の際にフィリピンを出入りする数千人の米軍兵士の存在と活動に関する法的枠組を定めるものである。米国とその同盟・提携諸国が攻撃性を増す中国を牽制する戦略を実施する中、同協定の重要性が高まっていた。
デルフィン・ロレンザーナ(Delfin Lorenzana)比国防相はドゥテルテ大統領の方針転換の理由は不明としながらも、7月29日にマニラで開催されたロイド・オースティン米国防長官との会談後に同大統領が破棄を撤回したと発表している。
ドゥテルテ政権のハリー・ローク(Harry Roque)大統領報道官が後に、破棄撤回の決定は「フィリピンの戦略的中核利益の推進および米比相互防衛条約(MDT)下の義務と責任に纏わる米国の立場の明確性に基づく」ものであると説明している。
同協定はまだ破棄には至っていなかったため、今回の撤回により根本的な状況にはそれほどの変化はないが米比関係の安定性が高まる。
オースティン国防長官はロレンザーナ国防相との共同記者会見で、「これにより将来的な確実性が高まる。長期的計画を策定し、さまざまな種類の演習を実施することができる」と述べている。 フィリピンは米国と安保条約を締結している同盟国であり、一部の軍事合意は「訪問米軍に関する地位協定」に依存する。
ドゥテルテ大統領の側近と言えるフィリピン国会議員への査証発給を米国が拒否するという事態が発生した後、同大統領は協定破棄を米国に通知したが、破棄の保留を繰り返していたため同協定は2021年末まで延長される見通しであった。
米国にとってフィリピンにおける米軍兵士の法的地位を確保することは、フィリピン防衛のためだけでなくインド太平洋地域で攻撃的な行動を繰り返す中国の防波堤として戦略的にも重要となる。
戦略国際問題研究所・東南アジアプログラムのグレゴリー・ポーリング(Gregory Poling)上級研究員は、ドゥテルテ大統領の破棄撤回により「米比同盟を強化できる貴重な可能性が得られた。このまま撤回されていたら、未来は暗かった」と話している。
南シナ海の紛争海域を巡って長年にわたりフィリピンと中国の間では緊張状態が続いている。
米国は2021年7月、南シナ海でフィリピンに対する武力攻撃が発生した場合は、1951年に調印された米比相互防衛条約に基づく措置を米国が発動する可能性があるとして中国を再度牽制したばかりであった。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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