アフガン政府崩壊を機に、タリバンと中国共産党はますます距離を縮めている。タリバン政権は8日、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への参加する意向を表明し、中国に経済支援を要請した。海外からの援助の停止によるアフガニスタン経済の悪化を受けての動きとみられる。
中国は緊急支援を行うなどして、タリバンに好意的な姿勢を見せている。アフガンに埋蔵されている天然資源と、一帯一路の円滑な展開に向け、周辺国におけるテロ組織との問題解決をタリバンに求めた。
専門家は双方の急接近により、アフガンにいるウイグル人が「取引対象」になる恐れがあると指摘する。
タリバンによる経済状況の悪化
タリバンのシャヒン報道官は8日、中国共産党機関紙・環球時報とのインタビューで「タリバンは中国の一帯一路プロジェクトへの参加を希望している」と述べ、中国との経済協力を訴えた。また、アフガンが直面する食糧危機に言及して「人道支援」も要請した。
タリバン高官らの中国訪問も希望した。シャヒン氏は「中国とロシアの代表団をカブールに招待する。その後北京の訪問もしたい」と述べ、中国との関係構築への意志を再度表明した。
悪化するアフガン経済は、中国を引き寄せる原因となっている。世界銀行の2019年の発表によると、アフガンは国外からの開発援助が国民総所得(GNI)の22%を占める貧困国だ。
アフガン国内では、金融インフラが急速に崩壊し、現金流出が深刻化している。AP通信によると、最近再開したアフガン国立銀行の前には、現金を引き出すために大勢の人々が並んだ。タリバンは、1人当たりの出金限度を1週間に200ドルと制限している。
しかし、銀行側にATM機に入れる現金がないのか、全く引き出せない場合も多い。カブールの公務員トリアリさんは「人々が将来に対して恐怖を感じるあまり、現金を欲しがっている」、「今後の困難に備え、この国を離れるときだけ使う」と消費萎縮の実態を伝えた。
アフガン情勢について、国連は経済崩壊に懸念を示し、国際社会がタリバンと対話しなければならないと促した。アントニオ・グテーレス国連事務総長は9日、仏AFPとのインタビューで「アフガンでは数百万人が飢え死にする危機に立たされている」と述べ、支援の必要性を訴えた。
こうした状況を受けて、主要国は、アフガン政府崩壊後に一時停止していた国際援助を再開する考えを示している。日本は9日、年内に2億ドルの支援をする用意があると表明した。22カ国の外相とNATO、国連事務総長らが出席するアフガニスタンに関する拡大会議では、10億ドルの人道危機回避のための支援する方針が決まった。
しかし、タリバン政権が国際支援をどのように利用するのか。フランスや前ガニ政権の外交担当はタリバンの信頼性の欠損を理由に、関係構築や支援には慎重を要することを強調している。
「天然資源の獲得」、アフガンを支援する中国の本音
タリバンの支援要請に中国は直ちに好意を示した。中国の王毅国務委員兼外相は8日、オンラインで行われたアフガン近隣諸国外相会議で、2億元(34億日本円)相当の食糧、ワクチン、医薬品などをアフガン側に緊急支援する方針を明らかにした。
米国など国際社会がアフガン暫定政権に対して憂いと制裁の態度を示したのとは対照的だ。アフガンを掌握しているタリバンが暫定政府の構成を発表した直後、中国外交部の王文斌報道官は、アフガン暫定政府構成について「タリバン側がすべての国民が新政権から利益を得ると強調したことに注目する」と新政権を認める姿勢を明らかにした。
中国は以前からアフガンとの関係を深め、国営企業を進出させるなど経済的利益を拡大している。中国国有資源大手・中国冶金科工集団(MCC)は2009年、インフラ建設を含む条件で、アフガン政府から世界有数のメス・アイナク鉱山における30年間の開発権を獲得した。米地質調査局(USGS)によると、アフガンにはボーキサイト(アルミニウムの原料)、銅、鉄鉱石、リチウム、レアアースなど再生エネルギーへの転換に最も重要な鉱物が多量に埋蔵されており、その価値は1兆ドルに上るという。
しかしアフガンには、この莫大な資源を開発する技術やインフラが存在せず、タリバンがアフガンを再占領し、海外からの投資はさらに遠のいた。中国はこのような状況を利用し、タリバンとのビジネス構築に積極的な態度を示している。
中国問題専門家で、インドに拠点を置くウサナス財団の上級研究員フランク・レーバーガー氏は、大紀元のインタビューに対し、タリバンと中国共産党の関係が「政略結婚」のようなものだと語った。「中共は一帯一路のために、比較的に安定したアフガニスタンを必要としている。タリバンが内戦を長引かせず、シーア派やトルクメニスタンの少数民族への虐殺行為を行わなければ、安定させることができるだろう」
近づく中国とタリバン、強制送還に怯えるアフガンのウイグル人たち
今回のアフガンに対する中国側の支援を機に、中共とタリバン政権は更に近づくものと予測できる。タリバンは8月28日、中国に使節団を派遣し、相互に内政干渉をせず、経済協力を行うことで合意した。
また、「国家再建」を掲げ、テロ組織に対する軍事訓練、資金集め、そして組織員の募集を禁止することを中国側に約束した。シャヒン氏は「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)のようなテロ組織は、これ以上アフガンに滞在できなく、アフガンをテロの根拠地にすることはできないと、断固として明らかにする」と述べ、今後アフガン国防省、内務省、情報省の3つの省庁が対テロ業務を担うことを強調した。
特に中国側は今回の合意により、パキスタンおよび周辺諸国で繰り広げる「一対一路」が、イスラム過激主義者らによって支障をきたしてはいけない点を強調した。タリバンが中国・新疆ウイグル自治区における独立問題に干渉しなければ、アフガン再建の過程で経済的支援をするという意味をほのめかしたものだ。
これに対してタリバンが、中国の迫害を避けてアフガンに避難したウイグル族を再び中国に強制送還させる可能性があり、アフガン内のウイグル族は危険にさらされている。中国経済·政治アナリストのブラッドリー・ジャーディン氏は「タリバンは中国から経済的譲歩と切実な投資を希望し、その点でアフガニスタンのウイグル族は、交渉対象になり得る」と分析した。
中国は2017年からウイグル族を含む少数民族を拘禁、監視しており、最近の証言によると、強制的な不妊手術と拷問が行われている。迫害を避けて現在アフガニスタンにいるウイグル族は約2000人と推定され、このうち多くは数十年前に両親が中国を脱出した第2世代移民者である。
アフガンの身分証には依然として「ウイグル」または「中国難民」と書かれており、彼らは自分たちが中国共産党の標的になり得ると懸念している。カブール在住の50代ウイグル族男性は28日、BBCとのインタビューに対し、「タリバンが政権を奪取して以来、外出ができずにいる。タリバンがわれわれを逮捕して中国に渡すのではないか心配だ」と述べた。アフガン内のウイグル族は脱出する方法を模索中だが、容易ではない状態だという。
(編集・潤水)
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