フランス国防省傘下のフランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)は9月20日、中国共産党が国内外で行っている様々な影響工作などを分析した長編の報告書「中国の影響工作」を発表した。外国の選挙に対する介入や世論操作、戦狼外交などの具体的な手法と、その根底にある基礎的な概念や具体例までを詳述し、分析を加えた。これらの手段は最終的に中国共産党のイメージダウンと弱体化につながるため、全体的に失敗であると断じた。
報告書が発表されると、「ル・モンド」紙をはじめとする30以上のフランスメディアが一斉に報道した。中国の駐フランス大使は報告書について記者から質問された際、報告書は「赤裸々な反中国行為である」とだけ述べ、内容については回答を避けた。
報告書は中国共産党の影響工作について、その基礎となる概念、工作を実行する主体、具体的な工作の手法、そして具体例という4つのパートに分けて紹介している。
第1パートでは、中国共産党による影響工作を理解するための重要概念として、「統一戦線」や「政治戦争」について紹介されている。「統一戦線」とは、共産党が国内外の敵対陣営にいる者を共産党側に転向させることをいう。また、「政治戦争」は中国共産党にとって有利な国際環境を作り出し、戦わずして勝利することを目的とするものであり、戦時下と平時とを問わず行われている。「政治戦争」には「世論戦」「心理戦」「法律戦」の3つの種類がある。
第2パートでは、中国共産党の影響工作を実行する主体となる様々な組織について詳述されている。具体的な組織としては、中国国内の全メディアと文化活動を統括する「中国共産党中央宣伝部」、ターゲットを絞って工作活動を行う「中国共産党統一戦線工作部」、海外の政党との関係構築を行う「中国共産党中央対外連絡部」、法輪功を迫害するために設置された法外の組織「610弁公室」、中国共産党軍の諜報機関などが紹介されている。さらに、中国共産党の影響を伝達するため、WeChat、Weibo、TikTokなどのデジタルプラットフォームや、バイドゥ、ファーウェイなどの民間企業も工作の一翼を担っていることが言及されている。
第3パートでは、中国共産党の海外における影響工作の具体的な手法が取り上げられている。国営メディアを使って、海外でプロパガンダを放送するメディア戦略、政治家の買収、選挙介入、輸入禁止措置や不買運動のような経済的強制、大学などの高等教育への介入、自己検閲の強制、ネット工作員による世論操作、独立運動や平和主義者の利用、人質外交など、中国共産党による様々な工作が取り上げられている。
第4パートのケースステディでは、中国共産党による「政治戦争」の具体例が取り上げられている。報告書によると、香港と台湾は中国共産党の政治戦争の最前線であり、一種の「訓練場」になっている。中国共産党は訓練場で培った経験を応用し、欧米諸国にも同様の工作を仕掛ける恐れがある。その例として、新型コロナウイルスが米国起源であることを信じ込ませようとした中国共産党の工作が紹介されている。
報告書は最後に中国共産党の影響工作の有効性について分析を行った。中国共産党の工作はいくつかの部分的な成功を収めたものの、その攻撃的な手法はかえって自身のイメージダウンにつながっているため、全体的に見れば失敗であると結論づけた。この様子を報告書では「中共の最大の敵は中共自身」と形容している。さらに、中国共産党のイメージダウンによる影響は国際社会のみならず中国国内にも波及し、結果的に中国共産党政権の弱体化につながると指摘した。
報告書はフランス軍事学校戦略研究所のジャン・バプティスト・ジャンヌ・ヴィルマー所長と中国問題専門家のポール・シャロン氏が中心となって調査を行い、50人以上の専門家が2年間を費やして書き上げた。調査の過程においては、中国共産党と親しい学者や専門家、中国共産党寄りの政治家などが除外されている。
(王文亮)
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