香港で「映画検閲法」可決 違反者には禁錮刑 ますます強まる中共支配

2021/11/07 更新: 2021/11/07

香港立法会(議会)は10月27日、映画検閲法を可決した。専門家は、香港における自由度がさらに制限され、中国共産党の支配がますます広がると指摘している。

この法律は、当局が「安全保障上の利益に反する」と見なした映画を対象にしている。違反者には、禁錮3年や罰金100万香港ドル(約12万8400万ドル)の刑が科せられる可能性がある。

ロンドン大学キングス・カレッジの映画学教授クリス・ベリー氏は「この新しい法律は、香港の基準、価値観、慣習を中国の他の地域と一致させるプロセスの一環だ」と述べた。同氏は、中国の映画について幅広く執筆し、香港大学出版社発行のシリーズ書籍の編集もしている。

ベリー氏によれば、北京は、香港返還50年を迎える自治と自由が約束された2046年に向けて、香港の制度をこれまで以上に本土と一致させようとしている。新法は「いまのシステムを大切にしている香港住民から見れば、自由の衰退のさらなる証拠である」と述べた。

抑圧の強化

ベリー氏によると、中国共産党政権が言論の自由などの「西洋」の価値観を否定していることを考えると、この検閲に関する法の成立は必然的な流れだという。

多くの香港人が政治的・芸術的な独立性に価値を置いているが、映画製作者は北京の検閲の目を気にしている。本土の映画市場は巨大で、興行収入は世界のどの市場よりも高いためだ。「プロジェクト・グーテンベルク ー贋札王ー」、「オペレーション:レッド・シー」、「Lストーム」など、中国と香港の合作映画は商業的に成果を上げており、徐 克(ツイ・ハーク)氏のような香港を代表する監督も中国にオフィスを構えている。

ベリー氏は、2004年1月1日に中国本土と香港の間で自由貿易協定が締結されて以来、香港の映画産業は二面性を帯びるようになったという。協定により、香港と中国の合作映画は国内映画の地位を得て、外国映画枠の対象外になった。商魂たくましい香港の映画製作者たちは、当局の検閲を見越した、本土文化に合わせた映画を作成したという。

このため、香港と中国の合作映画を制作してきたメーカーにとっては、新たな映画法の影響はあまりない。しかし、香港の独立したプロジェクトを追求する地元の映画製作者はターゲットにされる。

「香港の文化や問題に焦点を当て、言論の自由を行使し続けることを望む香港の映画制作者たちは、ドキュメンタリーから短編、劇映画まで、低予算映画の活発な文化を築いている。新法の下では、この地場産業の存続が危ぶまれる」とベリー氏は指摘した。

最も危機に瀕しているのは誰か

この法律は、施行前に制作された映画についても検閲対象になるとみられている。もちろん、彼らが作品を作った当時、自分たちの映画の内容が「違法」になるとは知る由もない。

ベリー氏によると、第35回香港電影金像奨で最優秀作品賞を受賞した2015年のディストピア・アンソロジー「十年」のような映画は、悪化する政治的抑圧と民衆へのいじめを描いているため、中国共産党(中共)が支配する報道機関の悪質な攻撃の対象となる可能性が高いという。

「『十年』は、ディストピア的な未来の香港を描いた短編映画集だ。当時、多くの人はヒステリックで誇張されたものだとみなしていた。6年後の今、同じコメンテーターは(映画の内容は)正しかったと言っている」とベリー氏は語った。

ベリー氏は、より自由な環境を求めて香港に亡命した本土の映画制作者たちも、表現の自由が制限されることになるとみている。

「妥協を拒む人」

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の中国研究ディレクターであるマイケル・ベリー氏(以下、M・ベリーと表記)は、香港の映画産業が中国の映画産業と緊密に統合されつつあると指摘した。本土で製作された映画における香港の著名人の役割がますます増えているという。

M・ベリー氏は、香港の地元文化に関心を持たず、中国で大規模な予算の映画を作る機会を得た香港出身タレントの例として、陳可辛氏、周星馳氏、ツイ・ハーク氏、ダンテ・ラム氏などを挙げた。彼らは、新法の影響を比較的受けにくいとみられるという。

「妥協を拒む人は香港に残った。地方色を盛り込んだ広東語の映画を作ったり、より先鋭的な政治的スタンスで情報を提供したりしていた」という。しかし、映画界でははるかに少数派だとM・ベリー氏は言う。

低予算映画の制作者は経済的な困難だけでなく、「政治的なレッドゾーンとなる新たな地雷原」を避けていかなければならなくなる。このため、彼らは偽名で映画を作る、自分の作品を「自己検閲」する、海外で活動する、あるいは映画制作をやめるなどの選択しか残されていない。

M・ベリー氏は、香港で起きていることは、中共が推し進めてきたプロパガンダの施策「良い中国の物語」の一環だとみている。結果的に、反体制派からのメッセージを世に送り出すことを難しくしている。中共の弾圧に対して公然と声を上げた映画製作者や芸術家であるデニス・ホー氏、チャップマン・トウ氏、アンソニー・ウォン氏などは香港のステージにあがる機会を奪われた。

M・ベリー氏によれば、こうした著名人の活動の制限以外にも、これまで公開されていた「六四天安門事件、雨傘運動など、本土で『敏感』とされる分野をテーマにした低予算の独立系ドキュメンタリー映画も、消されてしまう危険性がある」と述べた。

「香港の映画産業は、他の産業に比べて常に商業的に主導権を握っている。今回の新たな変更により、象徴的なアート映画や先鋭的な政治映画など、すでに疎外されている声が、さらに遠ざけられることになるだろう」と同氏は付け加えた。

武田綾香
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