外務省は10日、日中高級事務レベル海洋協議の団長間協議を開催したと発表した。日本側は、中国軍や海警局による活発な動きに懸念を申し入れ、行動の変化を強く求めた。
協議は船越健裕アジア大洋州局長と洪亮・中国外交部辺境海洋事務司長との間で、テレビ会議形式で3時間行われた。船越氏は、中国海警局の船が沖縄県の接続水域で連日航行していることや、中国とロシアの海軍艦艇による日本周辺における示威活動に懸念を示し、自制を求めた。
中国外交部の発表によれば、中国側は領土に関する立場を示したのち、日本側に対して「状況を複雑にするような行動を取らないよう求めた」という。
いっぽう、双方は建設的な両国関係を構築することで一致。自衛隊と人民解放軍の偶発的な衝突を避けるために必要な「日中防衛当局間のホットライン」の早期開設に向けた取り組みを進めることを確認した。
外務省によれば、年内にも、第13回目となる日中の外交・防衛および海上警備担当高官を交えた日中高級事務レベル海洋協議開催に向けて連絡を続けるという。第12回は今年2月に開かれた。
日中間に偶発的な衝突避ける防衛当局間ホットラインなし
海上における不測の事態の発生を防止するため、2018年、安倍首相(当時)は来日した李克強総理と日中は防衛当局間の連絡メカニズムの整備に合意した。日本側は外務省ほか農林水産省、海上保安庁、防衛省と、中国側の国防部や交通運輸部、海警局らの高級事務レベル協議は継続して行われているが、緊急時のホットライン設置には至っていない。
いっぽう、ホットラインが設置されたとしても、実際の危機に直面した際に中国側が使用するか、日本側からの連絡に対して応答するかは不透明との評価もある。
海上自衛隊幹部学校Webページに掲載されたコラム・日中海空連絡メカニズム(2018年6月6日付)は「定期会合にしてもホットラインにしても、その有効性は日中の国家間関係の従属変数であり、確実なものとは言えない」と記している。
眼前の現実として、日本周辺における安全保障環境はかつてないほど緊張が高まっている。10月中旬、中露軍が日本海で合同演習を行なったのち、双方の艦艇10隻は日本をぐるりと周回した。明海大学外国語学部の小谷哲男教授はオンライン雑誌ウェッジの寄稿文で、こうした日本周辺の中露軍による共同活動は、今後も続く可能性があるとの見方を示した。
外相に「知中派」起用
10日に発足した第2次岸田内閣では、中国との微妙な調整を担う外相に、日中友好議連代表の林芳正元文科相を任命した。一部報道では、自民党内から「親中派登用と国際的に誤ったメッセージを送る」との声があったとされるが、林氏はテレビ番組出演時「相手を知らないより、知中派のほうがよい」との自負を示したという。
政治アナリストの伊藤惇夫氏は英フィナンシャル・タイムズに対して、「林氏は中国に対して友好的なスタンスだが、バイデン政権の対中戦略を正確に把握しており、米国との緊張関係を生むような政策をとることはないだろう」と述べた。
林氏の就任前、吉田外務省報道官は10日の記者会見で「どの方が外相になっても、日本外交や安全保障の課題は山積していることに変わりはない」としたうえで、課題解決のためにリードする力を発揮することに期待を示した。また、「基軸は日米同盟であり、価値観を共有する国々と、パートナーと連携をして、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を目指していく」と述べた。
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