パキスタン南西部バルチスタン州に位置する港湾都市グワダルではこのほど、市民が中国当局の巨大経済圏構想「一帯一路」に抗議するためデモ活動を行ったことが報じられた。中国外務省の趙立堅副報道局長は「フェイクニュースだ」と反論したが、複数のメディアが複数回の抗議デモの開催を確認した。
数年前から抗議デモ
中国当局は2017年4月、パキスタン政府との間で、43年間グワダル港を租借する契約を結んだ。この契約は、両国が進める大規模インフラ整備計画「中国パキスタン経済回廊」の重要なプロジェクトの1つと位置付けられた。
パキスタン英字紙「フライデー・タイムズ(The Friday Times)」によると、11月15日以降、グワダルの住民数千人は「一帯一路」に抗議する新たなデモ活動を始めた。
趙立堅副報道局長は11月30日の会見で、グワダルでの抗議活動に関する報道は「事実無根で、フェイクニュースだ」として、「悪意を持って中パ経済回廊と中パ関係を中傷しようとした」と述べた。
だが、パキスタンの地元メディアなどによれば、グワダルでは数年前から抗議活動が行われている。
「中国の大型トロール船の乱獲が住民の生計に影響」
パキスタンのウルドゥー字紙「デイリー・ジャーン(Daily Jang)」の報道では、抗議者は政府に対して、地元漁民の生計を妨げる中国のトロール船を追い払い、飲用水や電力の不足を解決し、中パ経済回廊のために設置した検問所の撤去などを求めた。
グワダルは中パ経済回廊の要衝だが、地元住民は貧しい生活を強いられている。この地域で漁業に従事する住民は全体の7割以上を占める。
同国英字紙「パキスタン・トゥデイ(Pakistan Today)」は、グワダルから離れた他の地域の住民も11月末の抗議活動に参加したと伝えた。宗教政党ジャマーアテ・イスラーミー(Jamaat-e Islami)のバルチスタン州の総責任者、マウラナ・ヒダーヤット・ウル・レーマン(Maulana Hidayat-ur-Rehman)氏が現在、市民団体「権利をグワダルに与えよ(Give Rights to Gwadar Movement)」を率いている。
同国英字紙大手の「ドーン(Dawn)」は、抗議者がレーマン氏の呼びかけに応じたのは、同氏の宗教的・政治的な主張に同調したのではなく、同氏が地元住民の不満について声を上げてくれたからだと示した。
レーマン氏は11月22日、インドメディア「ウィオン(WION)」の取材に対して、「大型トロール船はわれわれの漁業操業区域を占拠した。地元の住民は生計を立てるのが難しくなっている」と話した。
「ウィオン」は同月30日、「グワダルの住民は中パ経済回廊やグワダル港プロジェクトに騙された。全く恩恵を受けていない」「中パ経済回廊とグワダル港プロジェクトが住民に恩恵を与えないなら、これらの計画は存在する必要がない」とレーマン氏の発言を引用し、報道した。
2020年8月、グワダルの漁民らは中国からトロール船20隻が到着することに抗議した。漁民は中国側の乱獲で、同地域の漁業資源や漁獲量がさらに減少すると懸念を示した。
パキスタン国民議会(下院)のアスラム・ボータニ(Aslam Bhootani)議員は当時、日経アジアのインタビューで、中国側の深海トロール船には「巨大な網が取り付けられているため、魚を大量に捕獲するだけでなく、海の生態も破壊している」と批判した。地元の漁船は小型で深海作業できないため、「中国の漁船と全く競争できない」と述べた。
「変化が起こるまで抗議する」
英紙ガーディアンも今年8月、グワダルでの抗議デモについて報道した。抗議者らは水不足や電力不足の解決、中国トロール船の不法操業への取締りを要求した。
ツイーター上では、グワダルで11月29日に行われた抗議活動の映像が投稿されている。抗議者の中に女性や子どもの姿も多くあった。
地元紙「バルチスタン・ポスト(Balochistan Post)」2日付によると、地元政府と抗議者の間で話し合いは続いているが、平行線が続いている。抗議者は道路で座り込み、「明らかな変化が現れるまで」抗議を続けていくとした。
(翻訳編集・張哲)
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