サイバーセキュリティ調査会社インターネット2.0による19日付の報告によれば、中国SNS「ウィーチャット」は中国政府からの資金を受けて海外でも中国共産党のプロパガンダ拡散に協力している。いっぽう、海外の一般ユーザには政治的広告やコンテンツの禁止を定めており、矛盾をはらんでいる。
中国を中心に10億人のアクティブユーザを抱える寡占的なSNS「微信」は、中国では通話やメッセージのほか支払い、商品注文、ゲーム等多岐に渡る機能を備えたアプリだ。英字版では「ウィーチャット」の名で発表されている。開発元のテンセント(騰訊)によれば、微信とウィーチャットは姉妹アプリであり互換性がある。
調査会社インターネット2.0の報告は、ウィーチャットがオーストラリア議会の「SNSを通じた外国干渉に関する特別委員会」に提出した文書を分析している。それによれば、ウィーチャットは選挙の候補者、政党による選挙の投票呼びかけ、政治的目的のための財政支援、法律や規制に関する有料プロモーションコンテンツを禁止している。また、偽情報や公共安全に関する重大な危害をもたらす可能性のある内容を禁止し、対象ユーザーを凍結しているという。
いっぽう、中国政府の調達記録から、ウィーチャットは2016年から2019年まで少なくとも10件の中国共産党宣伝部門との契約があり、プラットフォームにおける影響工作に協力している。契約は騰訊が大株主の中国子会社か、同社の馬化騰最高経営責任者(CEO)が所有する企業との契約だ。
ウィーチャットは外国で政治意見について一般ユーザーに制限すると定めているにもかかわらず、中国共産党の海外プロパガンダ発信には協力している。報告は、「ウィーチャットは自身のポリシーに矛盾している」と指摘している。さらには政治的宣伝は少なくとも同社がサーバーを置く米国では言論の自由として憲法上の権利として認められているが、現地法律を遵守するとのポリシーとも矛盾しているとした。
政治広報を制限するとしながらも、ウィーチャットは西側政治家の活動を全て禁止しているわけではない。例えば5月のオーストラリア総選挙ではアルバニージー候補(当時)は在豪華人向けに中国語で支持を呼びかけた。いっぽうモリソン候補のアカウントは後に乗っ取りのトラブルに遭い、対応に苦慮した。
このほか報告は、ウィーチャットが海外ユーザーの個人や操作情報(GPS位置情報、クリップボード、閲覧したウェブサイトや動画等)のデータを香港のサーバーに送信していると明らかにした。
「海外ユーザーのすべてのサーバーは中国本土の外にある」とテンセントは説明しているが、香港で2020年に制定された国家安全維持法では中国共産党の要求に応じて、ユーザーデータを当局に提供することが法的に義務付けられており、中国側からアクセスすることが可能となっている。
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