「クソ、飛行機から降りた!」
中国のSNSに投稿された動画に、イスを地面に強く叩きつけながらこう訴える男性の姿があった。
米国のナンシー・ペロシ下院議長を乗せた飛行機が2日夜、台湾の台北松山空港に着陸すると、この動画が投稿され、話題となった。ほかにも、自分の顔を思い切りビンタしたり、割れたビール瓶を体にぶつけたりする人が続出し、強い落胆ぶりを見せた。長い間、愛国主義をあおり人心を繋ぎ止めてきた当局の戦略が失敗した瞬間だった。
7月末にペロシ氏の訪台計画が報じられた後、中国政府は厳しい言葉を繰り返し、台湾訪問を阻止しようとした。
「火遊びすれば身を焦がす」(米中首脳会談での習近平氏の発言)
「ペロシ氏の搭乗機を撃墜しろ」(政府系メディア元編集長の胡錫進氏)
「米空母を撃沈せよ」(同上)
「いっそのこと、台湾を解放せよ」(同上)
「14億の中国人民を敵に回す者には悲惨な結末が待っている」(8月2日の王毅外相)
「米国は張子の虎だ」(華春瑩・外務省報道官)
こうした過激な発言は民族主義者らの血を沸き立たせた。
「今夜、台湾統一をこの目で見届けよう!」と狂喜乱舞するネット民だったが、ペロシ氏を乗せた飛行機が無事着陸すると、落胆して取り乱すネットユーザーが相次ぎ、失望感の大きさを物語った。
胡錫進氏もペロシ氏の台湾到着後、SNS微博を更新し「外交努力と世論によってペロシ氏の訪台を阻止できなかった」と認め、「人々は失望している」と書き込んだ。
ペロシ氏は3日、蔡英文総統との会談、台湾の議会にあたる立法会への訪問、人権活動家らとの面会などの日程をこなし、韓国に向かった。直後に中国政府は軍事演習の実施を発表した。
ネット上では、こうした中国の対応が「弱腰だ」とバッシングする投稿が急増した。なかに、江西省から来たと名乗る男性が、台湾に近い福建省厦門市政府の庁舎前で生卵を投げつける動画が話題となった。
男性は「アメリカ人が目前までやってきたのに、共産党は何も言わない。腐ったこの卵で政府を叩き殺したい」「全くの臆病者。戦うべきものとは戦い、奪い返すべきものは奪い返すのだ」と怒りを爆発させた。
別の動画では、ある市民は政府機関の前で「無能な政府。民族滅亡の兆候だ」と書かれた横断幕を掲げて抗議した。
ある男性は動画で「我々は騙された。祖国統一はただのスローガンだった」と涙ながらに訴えた。
あるネットユーザーは「自国民を手厳しく管理し、外国に弱腰な中国政府こそ、張子の虎だ」と不満の矛先を政府に向けた。
ここ数年、中国共産党政権は「あなたの後ろで強い祖国が支えている」「台湾統一は祖国の偉業」などの扇情的なスローガンで、人々の愛国心を奮い立たせ求心力を高めてきた。愛国主義者らは、台湾を国扱いした俳優、歌手、企業、スポーツチームを見つけては粗探しを行い、謝罪に追い込んだ。
共産党の岩盤支持者である愛国市民の失望は、今秋の党大会で3期目を目指す習近平氏にとって大きな痛手となる。今後、台湾への強い対抗措置で内政の安定を図りそうだ。
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