【全文】新防衛3文書閣議決定 岸田首相演説

2022/12/16 更新: 2022/12/16

本日、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略および防衛力整備計画の三つの文章を閣議決定いたしました。

私はかねてより、世界は歴史的分岐点にあると申し上げてきました。この30年間、世界はグローバル化が進展し、世界の一体化、連携が進んできました。しかしながら、近年、国際社会におけるパワーバランスの変化などによって国と国の対立、むき出しの国益の競争も顕著となり、グローバル化の中での分断が激しくなっています。

国際社会は、協調と分断、協力と対立が複雑に絡み合う時代に入ってきています。その分断が最も激しく現れたのが、ロシアによるウクライナ侵略という暴挙であり、残念ながら、我が国の周辺国・地域においても、核ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどの動きが一層顕著になっています。

今年一年間を振り返っても、5年ぶりに弾道ミサイルが我が国上空を通過いたしました。我が国の排他的経済水域(EEZ)内に着弾する弾道ミサイルもありました。さらに、核実験に向けた準備の兆候もあります。そして有事と平時、軍事と非軍事の境目が曖昧になり、安全保障の範囲は伝統的な外交防衛のみならず、経済、技術などにも広がっています。

この歴史の転換期を前にしても、国家・国民を守り抜くとの総理大臣としての使命を断固として果たしていく、こうした決意を持って、昨年末から18回の国家安全保障会議(NSC)4大臣会合での議論を重ね、新たな国家安全保障戦略の策定と、防衛力の抜本的強化を含む安全保障上の諸課題に対する答えを出させていただきました。

今後5年間で緊急的に防衛力を抜本的に強化するため、43兆円の防衛力整備計画を実施する。令和9年度には、抜本的に強化された防衛力とそれを補完する取り組みを合わせて、GDPの2%の予算を確保する、そのための安定した財源を確保する。この結論に至る過程においては、国家安全保障局等におけるヒアリングや有識者会議を通じて、様々なご意見をいただきました。自公の与党ワーキングチームにおいても、率直かつ精力的な議論をいただきました。さらに、日本維新の会や国民民主党からもご提言をいただきました。日本と国際社会の平和と安全を願うすべての皆様の真摯なご協力に感謝を申し上げます。

もちろん国民の命、暮らし、事業を守り抜く上で、まず優先されるべきは我が国にとって望ましい国際環境、安全保障環境を作るための外交的努力です。今後とも、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を重視しつつ、日米同盟を基軸とし、多国間協力を推進する積極的な外交をさらに強化していきます。同時に、外交には裏付けとなる防衛力が必要であり、防衛力の強化は外交における説得力にも繋がります。

その上で今回、防衛力強化を検討する際には、各種事態を想定し、相手の能力や新しい戦い方を踏まえて、現在の自衛隊の能力でわが国に対する脅威を抑止できるか、脅威が現実となった時にこの国を守り抜くことができるのか、極めて現実的なシミュレーションを行いました。率直に申し上げて現状は十分ではありません。新たにどのような能力が必要なのか、三つ具体例を挙げたいと思います。

一つ目は反撃能力の保有です。これまで構築してきたミサイル防衛体制の重要性は変わりません。しかし、極超音速核兵器や変則軌道で飛翔するミサイルなど、ミサイル技術は急速に進化をしています。また、一度に大量のミサイルを発射する飽和攻撃の可能性もあります。こうした厳しい環境において、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は今後不可欠となる能力です。

二つ目は、宇宙、サイバー、電磁波等の新たな領域への対応です。軍事と非軍事、平時と有事の境目が曖昧になり、ハイブリッド戦が展開され、グレーゾーン事態が恒常的に生起している厳しい安全保障環境において、宇宙・サイバー・電磁波等の新たな領域でも我が国の能力を量・質両面で強化していきます。

三つ目は南西地域の防衛体制の強化です。安全保障環境の変化に即して、南西地域の陸上自衛隊の中核となる部隊を倍増するとともに、日本全国から部隊を迅速に展開するための輸送機や輸送船舶を増強します。これは万一有事が発生した場合の国民保護の観点からも重要です。さらに、尖閣諸島を守るための海上保安庁の能力増強や、防衛大臣による海保の統制要領を含む自衛隊との連携強化といった取り組みも進めていきます。

こういった取り組みを始め、弾薬等の充実、十分な整備費の確保、隊員の処遇改善などを含め、今後5年間で43兆円程度の防衛力整備計画を実行します。計画の着実な実行を通じて自衛隊の抑止力・対処力を向上させることで、武力攻撃そのものの可能性を低下させることができます。また、防衛力だけでなく総合的な国力を活用し、我が国を全方位でシームレスに守っていきます。このため、海上保安庁の能力強化、経済安全保障政策の促進など、政府横断で早急に取り組みます。

そしてこれらの取り組みも踏まえ、防衛力の抜本的強化を補完するものとして、研究開発や公共インフラ整備に取り組むなど、総合的な防衛体制を強化します。以上の防衛力の抜本的強化とそれを補完する取り組みを合わせて、令和9年度には現在のGDPの2%に達することとなるよう、予算措置を講じてまいります。

NATOをはじめ各国は、安全保障環境を維持するために、経済力に応じた相応の防衛費を支出する姿勢を示しており、こうした同盟国・同志国等との連携も踏まえ、令和9年度に向け取り組みを加速してまいります。5年間かけて強化する防衛力は令和9年度以降も、将来に向かって維持強化していかなければなりません。そのためには、裏付けとなる毎年度約4兆円の安定した財源が不可欠です。そのため私はこの春の通常国会から、防衛力強化の内容・予算・財源、この三つを本年末に一体的に決め、国民に明確にお示しするとの方針を一貫して申し上げてまいりました。

安定的な財源として、財務大臣に対し、まずは歳出削減、剰余金、税外収入の活用など、ありとあらゆる努力検討を行うよう厳命いたしました。結果として、必要となる財源の約3/4は歳出改革等の努力でまかなう道筋ができました。残りの約1/4の1兆円強については様々な議論がありました。

私は内閣総理大臣として国民の命・暮らし・事業を守るために、防衛力を抜本強化していく、そのための裏付けとなる安定財源は、将来世代に先送りすることなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものと考えました。また、防衛力を抜本的に強化するということは、端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということです。これを借金で賄うということが本当に良いのか自問自答を重ね、やはり安定的な財源を確保すべきであると考えました。

今回、一体的に決めるとの方針のもと、与党において熱心な議論が行われ、本日与党税制改正大綱が決まりました。法人税については、法人税額に対し税率4~4.5%の新たな付加税をお願い致します。これは法人税率に換算すると1%程度です。またその際、中小企業への配慮を大幅に強化し、所得換算で約2400万円の控除を設けました。その結果、今回の措置の対象となるのは全法人の6%弱です。

所得税については物価高に賃上げが追いついていない現下の家計の状況を踏まえ、所得税の負担が増加しないようにしています。具体的には、まず所得税額に対して2.1%をお願いしている復興特別所得税を1%引き下げると共に、課税期間を延長し、復興財源の総額を確実に確保いたします。廃炉や福島国際研究教育機構の構築など息の長い取り組みについても、しっかりと支援できるよう、引き続き責任を持って取り組んで参ります。

その上で、減額分に相当する税率1%の新たな付加税をお願いすることとしております。さらにたばこ税については、一本3円相当の引き上げを段階的に実施いたします。従来から申し上げている通り、これらの措置は来年から実施するわけではありません。実施時期は現下の経済状況等を踏まえ、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、その開始時期等の詳細については、与党でもさらに議論をつづけ、来年決定することとなります。

そうであれば、別に今年決定しなくてもいいのではないか、というご意見も頂きました。しかし、将来国民の皆さんにご負担を頂くことが明らかであるにもかかわらず、それを今年お示ししないことは説明責任を果たしたことにはならない、誠実に率直にお示ししたい、そのように判断いたしました。引き続き国民の皆様に、今回の措置の目的、内容を丁寧にご説明するよう努めてまいります。

私たちの今の平和で豊かな暮らしを守るために、また、我々が未来の世代、未来の日本に責任を果たすために、どうかご協力をお願いいたします。

安倍政権において成立した平和安全法制によって、いかなる事態においても、切れ目なく対応できる体制がすでに法律的、あるいは理論的に整っていますが、今回新たな3文書を取りまとめることで、実践面からも安全保障体制を強化することとなります。まさに、この3文書とそれに基づく安全保障政策は、戦後の安全保障政策を大きく転換するものであります。

もちろんこれは日本国憲法、国際法、国内法の範囲内での対応であることは言うまでもありません。非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変です。こうした点について、透明性をもって国民に説明するのみならず、関係国にもよく説明をし、理解をしてもらう努力を続けてまいります。

以上、日本を守るための防衛力強化等についてご説明させていただきましたが、防衛力の強化は国民の皆さんのご協力とご理解なくしては達成することが叶いません。我々一人ひとりが、主体的に国を守るという意識を持つことの大切さは、ウクライナの粘り強がよく示しています。我が国の安保政策の大きな転換点にあたって、我々が未来の世代に責任を果たすために、国民の皆さまのご協力を改めてお願いを申し上げます。

ありがとうございました 。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
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