中国での新型コロナウイルスの感染急拡大を踏まえ、日本を含め多くの国では中国からの入国者を対象に水際対策の強化が始まり、新たな変異株の流入に警戒が強まっている。こうしたなか、国際的な独立保健研究機関のトップは、今後中国で新たに変異株が発生するリスクは低いとみている。
米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)クリストファー・マレー所長は、米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)とのインタビューで、免疫学的な観点から中国で新たに変異株が発生するリスクは低いと分析。コロナ感染拡大の主因はブレイクスルー感染で、「免疫がない集団よりも、むしろ免疫に守られた集団で発生する可能性が高い」との認識を示した。
世界保健機関(WHO)は4日、中国疾病対策予防センター(CDC)から提供されたデータに基づき、中国で発生した最新の集団感染はオミクロン変異株の亜種「BA.5.2」および「BF.7」が主体で、新たな変異株は確認されなかったと発表した。
中国における感染状況の実態把握については、マレー氏は昨年12月の感染拡大以来、「中国はオンラインで報告を受けることができるが、基本的に感染症の報告をしていない」として、中国の姿勢を批判した。
国際社会でも中国政府が発表する公式統計に対して、実際の感染状況を反映していないと指摘する声が高まっている。
WHOで緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は4日、定例記者会見で「中国が現在発表している情報は、入院数や集中治療室(ICU)の患者、死亡者数について過小評価していると考える」と統計の正確性に疑問を呈した。
世界の医療専門家からは、中国当局が発表する死者数では一桁台で推移しているものの、パンク状態となった国内の葬儀場や火葬場の様子とは対照的で実態と大きくかい離していると指摘する声が相次いでいる。
中国政府は先月下旬、新型コロナに感染して引き起こされた肺炎または呼吸器不全による死亡者のみを集計対象にする方針を発表した。これに対して、WHOは中国政府のコロナ死者の定義が「狭すぎる」と問題視している。
マレー氏は、中国政府による死者数の隠ぺいは「意図的かもしれないし、死亡者数を報告するデータシステムが米欧などの国ほど先進的でない可能性がある」としたうえで、「根本的に(感染者数や入院率よりも)死者数が一番重要な指標だ」 と述べた。
中国での死者数について、ワシントン大学医学部保健指標評価研究所は、最新のモデル予測結果に基づき、23年中に中国での死者数が100万人以上に上るという予測を発表した。
マレー氏は「ワクチン接種率や中国製ワクチンの使用、年齢構造など香港と中国本土は類似性が高い。これを踏まえ一定のテストを適用すると、香港での1万人の死者数から中国本土全体における死者数は160〜170万人になると換算できる」と分析した。
マレー氏は、中国における感染状況を正確に反映したデータの入手が「非常に大きな課題」と指摘。このため、中国における感染状況の収束時期を予測することに「全く自信がない」と述べた。
そのうえで、国際社会は衛星画像やインターネットのデータを利用することによって、政府から独立した「さまざまな形の新型コロナ関連の情報報告システム」の構築を促す必要があるとの考えを示した。
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