中国共産党は国内で混乱が起きるたび、安定維持のためにあらゆる手段を使ってきた。現在、中共ウイルス(新型コロナ)の感染が拡大する国内では医療のひっ迫や火葬場の混雑によって国民の不満要因は幾重にも重なっている。
これまでの観察では、政策転換の正当性を強調した国内向けのプロパガンダ、台湾への軍事圧力、反腐敗の功績アピールなどが安定維持の「カード」として使われてきた。北京は、外敵や腐敗官僚に対する憎悪をかきたてれば批判の矛先を外へ向けられると考えている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は6日、中国政府の意思決定に近い当局者や政府顧問の話として、習氏がゼロコロナを撤回した理由について報じた。それによれば「ゼロコロナ政策により中国経済が深刻な打撃を受け、地方財政は枯渇した。そこへ相次ぐ抗議行動と政府各方面からの緊急要請を受け、政策転換を決断した」という。
中国国営新華社通信も8日、政府がゼロコロナ政策を急転換した背景を説明する長文の記事を掲載し、正当性を強調した。つまり、政策変更は科学に基づいた党中央の決断であり、党の防疫政策は「始終正しい」というのだ。
政策の正当性をひたすら強調するプロパガンダに加え、習政権は過去の反腐敗の功績まで掲げ始めた。昨年収賄罪などを問われて執行猶予2年付きの死刑判決が下った前司法相の傅政華被告は7日、中国国営放送の中央電視台(CCTV)に出演し「テレビ自白」した。傅被告は罪を認め「党のイメージを損なった」などと反省の弁を述べた。
習当局がこのタイミングで過去の反腐敗の成果をアピールするのは、党紀の整頓、党員の腐敗などを監督する「中央紀律検査委員会(中紀委)」の総会を控えるなかで党紀を整理する狙いもあるだろう。それより重要なのは、腐敗官僚に対する国民の憎しみの記憶を呼び起こして、党へ向けられた不満の矛先を逸らすことだ。
国内向けの「注意逸らし」に加え、中国当局は国内向けの安定維持のカードが効かなくなった時、将来的には台湾海峡で小規模な衝突を起こす可能性も排除できない。
昨年の大晦日では、台湾周辺空域に多くの中国軍戦闘機などが飛来した。中国の戦闘機などは繰り返し台湾海峡の「中間線」を越え、台湾のミサイルシステムが警報を出すほどまでに、過去では見られないほどの台湾接近を試みた。今月8日にも中国は台湾周辺で軍事演習を行っており、延べ57の航空機と4隻の艦艇延を出動させて夜を徹して台湾へ嫌がらせを行ったほか、4方向から台湾を包囲して威嚇し、台湾海峡の高度な緊張状態を作り出した。
中国が軍事演習を行った背景には、台湾に対して今後5年間で最大100億ドル(約1兆3300億円)の軍事支援を行うことが明記された米国の2023会計年度の国防権限法成立への反発との分析もあるが、確かにそれも一因だろう。
それよりも、将来的に国内の混乱が手に負えなくなった時、国民の焦点を逸らすために台湾海峡で小規模な衝突を起こすための下準備ではないかという点に注目したい。
中国共産党の指導者にとって、最重要かつ再優先課題は台湾問題というよりも政権の安定だ。しかし、ゼロコロナ政策の失敗で解禁を余儀なくされた今、このまま感染がどこまで拡大し、どこまで経済を悪化させるのか、また新たな変異株が現れないか、国民の不満がどこまで高まるのかなどに関しては予測ができない。対台湾の圧力のエスカレートは、いざという時のための一種の「保険」のようなものとなる。
将来的に本当に深刻な国民不満や抵抗が生じた場合、国民にその感情を発散させるために、中国当局は「外部勢力と台湾独立分離主義勢力による挑発的な行動への対抗」を口実に、台湾海峡で小規模な軍事衝突を起こす可能性が非常に高い。
そのような小規模な戦火を利用すれば、共産党へ向けられた国民の怒りや不満を外敵に向けさせることができ、党への不満を沸き立つ「ナショナリズム」に置き換えることもできる。最終的に政権の安定維持の目標が達成される。
今のところ中国当局が「台湾戦火のカード」を切る可能性はまだ低いかもしれないが、選択肢として残っている。相手が中国共産党という人間の正常な思惟を持たない邪悪な政権であることを忘れてはならない。中国の政権安定が危うくなった時などは特に要注意だ。
(翻訳編集・李凌)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。