欧州は台湾をめぐる米中間の対立から距離を置くべきとのマクロン仏大統領の発言に対し、欧米諸国の議員からは批判が相次いでいる。フランスの独自性を強調する同氏の発言は、地政学的リスクが高まる今日の国際情勢にそぐわないと時事評論家は指摘した。
マクロン氏は仏紙レゼコーと米ポリティコのインタビューに応じ「台湾危機をエスカレートさせることは欧州の利益と合致しない。さらに困ったことに、欧州の人々はこの問題に追随する必要があると考え、米国と中国の過剰反応に合わせていることだ」と述べた。さらに「欧州の人々はウクライナの危機さえ解決できていないのに、台湾問題についてどうして口出しできるのだろうか」と付け加えた。マクロン氏は米中とも距離を置く「第三極」を目指すべきだと主張している。
これに対し欧米の議員は相次いで反発した。米国のマルコ・ルビオ上院議員(共和)はマクロン氏に対する批判的な動画を投稿し、「マクロン氏は彼自身を代表して発言したのか、それとも欧州を代表して発言したのか、はっきりさせるべきだ。中国はマクロン氏の発言に大興奮だ」と述べた。米国が欧州の安全保障に大きく関わっていることに言及し、欧州が台湾問題で中立的立場を取るならば、米国は欧州における安保・外交政策を変化させる可能性があると指摘した。
29カ国の議員からなる国際議連「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」は声明を発表した。中国共産党が軍事演習を行いロシアの侵略戦争を支持している状況において、マクロン氏の発言は「不適切なもの」であり、「独裁者を宥める努力が水の泡に帰することは歴史が証明している。不幸にも(マクロン)大統領はその教訓から何も学んでいないようだ」と指摘した。議連はさらに「大統領閣下、あなたは欧州を代表していない」と言明し、欧州諸国は引き続き台湾を注視していく方針であると強調した。
マクロン氏の一連の言動について、その名前を揶揄した新しい言葉「マクロンする(macroning)」がツイッター上に登場した。「中国への依存度を高めるとともに、EUの戦略的自主性を高める必要性について欧州のパートナー(米国)にお説教する」意味だという。
時事評論家の唐靖遠氏はマクロン氏の振る舞いについて、発言そのものは外交において独自路線を歩む「ド・ゴール主義」に影響を受けたものであるが、冷戦時以上に緊張が高まる今日の国際情勢にそぐわないと指摘した。ド・ゴール主義はフランスの政治家シャルル・ド・ゴールの政治的イデオロギーであり、冷戦下においては米国に必ずしも同調せず、経済・外交・安保の分野においてフランスの独自性を確保するもの。
唐靖遠氏によると、ド・ゴール氏は第三次工業革命の大波に乗り、大戦後のフランスの復興と経済発展に成功することで、自身の政策を有利に進めることができた。対するマクロン氏は有用な経済政策を打ち出せず、国内ではデモが頻発している。唐氏はまた、ド・ゴール氏はナチスドイツの侵略に抵抗するなかで名声を築き、フランスの国力を振興させることで民意を味方につけたが、マクロン氏の支持率は低迷していると指摘した。
その上で唐靖遠氏は、ヨーロッパに対するロシアの脅威が消えず、中国共産党が東アジアの平和を破壊している今日において、中国に接近しようとするマクロン氏の行動はドゴールの名を借りた宥和政策に他ならないと述べた。
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