[東京 24日 ロイター] – 与野党が岸田文雄内閣の中間評価と位置付けた衆参5補欠選挙は、自民党が「4勝1敗」しながらも次期総選挙で圧勝を確信できるほどの勝ち方ではなかった。それでも首相が近く解散の判断をするとの思惑は消えず、選挙をにらんで与党内から財政拡張圧力が強まりかねない。景気減速の足音も聞こえ、防衛費増額の負担議論などにも影響が出る可能性がある。
23日投開票された補選で、自民党は5選挙区のうち衆院千葉5区と山口2区、同4区、参院大分選挙区で勝利した。「政治とカネ」の問題による辞職を受けて実施された千葉5区も勝ち、専門家からは「党内では3勝2敗との見立てが多かった。4勝1敗なら万々歳」(法政大大学院の白鳥浩教授)との声が出ている。
補選では、物価高や少子化にどう対処するかに加え、外交・安全保障戦略なども争点となった。それぞれを重要政策に掲げる岸田政権にとっては「一定の評価を得た格好で、(5月の)広島サミット後の早期解散に弾みがついた」と、白鳥氏は語る。
もっとも、自民党の二階俊博元幹事長や世耕弘成参院幹事長ら有力議員を擁する和歌山では想定外の敗北を喫した。勝利した4つの補選も辛勝で、統一地方選後半戦の294市議選では苦戦も目立った。補選は投票率の低さが自民党に有利に働いたとの見方も多い。
元自民党幹部職員で、政治評論家の田村重信氏は「岸田政権として分析が必要になった」と指摘。「解散・総選挙で投票率が上がれば政権交代の可能性も否定できない。岸田内閣として将来不安を払しょくする政策をいかに打ち出せるかが今後の焦点になる」と話す。
<くすぶる財政拡張観測>
岸田首相は24日午前、選挙結果の所感を記者団から問われ、「重要政策ひとつひとつを前進させる、結果を出す。これに尽きる。いま解散総選挙については考えていない」と述べた。
ただ、首相が衆院解散・総選挙をいつ判断するかは「早ければ6月の通常国会会期末にもあり得る」(自民中堅)との声がくすぶり、苦戦した今回の選挙結果を見る限り、財源負担の先送りや追加経済対策が選択肢に入るとの見方が出ている。
今回の補選で衆院和歌山1区を制するなど、日本維新の会が急速に勢力を拡大する中、自民党内から総選挙の前倒しを求める声も少なくない。足音が聞こえ始めた景気減速が本格化する前に解散すべきとの意見も出ている。自民党幹部は「勝てるときに勝つのが選挙。今やらないと意味がない」と話す。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、「(5月のG7広島)サミット後はいつ解散があってもおかしくない。政治的に財政拡張圧力が強まると同時に、増税に対する風当たりも与党内でより強まりやすい」とみる。
<負担案見直し論も>
岸田政権は防衛力強化を巡って2024年以降、法人を含めた税負担を求めようとしている。一方、子育て予算倍増の主な財源については新たな増税はせず、社会保険料の見直しなどで賄う案が政府内で浮上しているが、「社会保険料だろうと税だろうと、財源が天から降ってこない以上は何かしらの負担になる」(前出の自民中堅)という状況に変わりない。
野党にとどまらず、政権与党からも追加負担を懸念する声は根強く、6月にまとめる経済財政運営の指針(骨太方針)の段階では「(子育て予算の)金額と政策目的に折り合いをつけるのが精一杯」と指摘する政府関係者もいる。
年末にかけては急ピッチな利上げに伴う海外景気の失速が予想され、「米国では11月にも利下げに転じる可能性がある」(日本総研マクロ経済研究センターの栂野裕貴研究員)とされる。
日米の金利差縮小で円高圧力がかかるとみる向きもあり、「仮に円高が進めば企業収益への影響が懸念され、防衛財源や子育て予算拡充を巡り、負担案の見直しを求める声が出やすい」(大和証券の末広徹チーフエコノミスト)との声も出ている。
(竹本能文、山口貴也 編集:久保信博)
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