今月3日に撮影されたとされる動画が、華人圏のSNSで拡散されている。それは中国で販売されている住宅の欠陥ぶりを示す最たるもので、室内にある「柱」をハンマーで叩いてみたところボロボロ崩れた。中身が何もない、全くの空洞だった。
天井を横に走る梁(はり)も、本来ならば十分な強度をもつはずの重要な構造部である。しかし、ハンマーで叩くと簡単に落ちた。鉄筋が全く入っていなかったことは、動画からも分かる。
「見せかけの柱と梁」は何のためか?
この動画の説明によると、この常識を覆すほどの欠陥住宅は、温州瑞安市の「瑞祥華鴻原墅(瑞雅苑)」という集合住宅で分譲されている「物件」だという。
動画には、ネットユーザーから懸念の声が多く寄せられている。「絶対住みたくない」「こんな家に住むのは自殺と同じ」といった不安を吐露する声から、「(販売会社や施工業者は)金さえ儲かれば、居住者の安全など知らんというのか!」などストレートに怒りをぶつける声も目立つ。
しかし、一部のユーザーからは「空洞の柱など(中国では)よくあることだ。安全性に問題はない」といった指摘も寄せられている。
本当に安全性に問題がないのだろうか。日本大紀元は、この動画を都内で建築設計事務所を主宰する、一級建築士のA氏(日本人)に見てもらい意見を聞いた。
A氏によると「柱と梁の配置は、建築構造設計において計画され、その上構造計算で検証されるが、計算上必要がない柱と梁は景観性、使用性にも問題となるため、まず配置されることがないと考えられる」として、この位置に柱や梁があることに疑問を呈した上で、「これは建築偽装である可能性が最も高い」と指摘した。
検査をごまかすための「偽装」
そうすると、なぜわざわざそのような機能をもたない、飾り物の柱や梁をそこに設置したのかという疑問が残る。これに関しては、A氏は「恐らく検査対策のためだろう」と推測する。
通常、建築物の検査は、施工の途中または竣工時に行われるもので、主に「設計図どおりに施工されているかどうか」をチェックする。つまり検査時に、あるべきものがそこにないと合格できない。それを偽装するために、石膏ボードなどで「柱」を簡易的に作ったのではないか、とA氏は見る。
そんなことをすれば建物が倒れるのではないか、という気にもなる。この疑問に関してA氏は、「致命的ではないところで偽装された場合、すぐに倒れはしない。しかし安全性が損なわれていることは確かだ」と指摘する。
建築の専門家であるA氏は「本来、構造部材の欠落は大問題であるため、通常の使用は問題ないかもしれないが、暴風や大地震の時には問題になる可能性が高くなる」と、動画で目にした住宅のリスクに懸念を示した。
検査する側も「知っていて見逃す」
当然のことだが、中国においても、建築関係の法律に則した建築物の検査は行われている。この動画に見られる事例のように「中身がない柱」や浮いたコンクリート壁などは、打診棒で叩く聴音検査をすれば、きわめて簡単にその欠陥の有無が分かるはずだ。
このような「稚拙な偽装」は、専門家はもとより、素人でも見抜くことができる。しかし、その欠陥住宅を「合格」にしてしまう深刻な腐敗構造が、検査する側の「暗黙の了解」もふくめて、現代の中国社会に蔓延しているのが実情だ。
そうした形骸化した検査が、あまりにも常態化している。そこには、もはや良心がとがめることさえない贈収賄や特殊接待の実態があることを想像しても、今の中国の場合、決して的外れではない。
「驚くほどの欠陥住宅が、今の中国には無数に存在する」という事実が、そうした社会的な腐敗構造を証明する何よりの証拠である。
さらには、住宅を購入する消費者を「巧妙に騙す手口」がそれほど発達していることも、中国社会の病んだ部分として付言しなければならない。
高層住宅で「手すりが抜ける」恐怖
こうした欠陥住宅を生み出す手抜き工事を「おから工事(豆腐渣工程)」と呼んでいる。豆腐のおからのように手で握っても崩れる壁では、いかに見た目が「設計図どおりに」つくられていても、地震などの天災にはとても耐えられない。
従来こうした「おから工事」は、入れるべき鉄筋の本数を間引いたり、凝固させるために混ぜるセメントの分量を減らすなど、主として原材料のコストを抑えるために行われる悪質な行為と見られてきた。
それに加えて、冒頭の「空洞の柱」の例に見られるような、まさに検査の目をごまかすための偽装という実態がある。また、建築の専門知識をもつはずの検査側も「暗黙の了解」で通過させていると見られることから、中国の「おから工事」が抱える闇は非常に深い。
最近も、中国の「おから工事」による欠陥住宅の実態を伝える複数の動画が、SNSで拡散されている。
「5月6日、中国広東省深圳市光明区にある国営企業『深業雲築(深业云筑)』が建てて購入者に引き渡しされた家、床は亀裂だらけ、あちこちで水漏れ、これが国営企業の品質か?」という説明が添えられた物件では、見ていられないほどの「おから」ぶりだった。
天井の照明や壁などから漏水が絶えず、部屋の中は水浸しという惨状。物件を購入したとみられる撮影者は「ここで魚が飼える」と、悲しい冗談まで口にした。
このほかにも、ネットやSNSで「豆腐渣工程(おから工事)」と検索をかければ、多くの事例がヒットする。
なかでも、ぞっとするほど恐ろしいのは「2階のベランダに突然穴が開き、そこから1階へ転落した女性」と「高層マンションのベランダにある安全用の手すりが、畑の青菜を抜くように、手で簡単に抜ける」だ。(下の動画)
数年前まで続いていた、中国における不動産投機への狂乱ぶりはすでに退潮期へ入ったとされる。しかし、それによって「おから工事」が生み出す欠陥住宅がなくなったわけではない。
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