中国共産党によるツイッターやフェイスブックなどSNSにおけるウソの拡散や世論工作には、中国のサイバーセキュリティ大手や地方公安局が関与していることが、豪シンクタンク・豪戦略政策研究所(ASPI)の報告書で明らかになった。
報告書は中国共産党のインターネット影響力作戦を詳述する。この工作は中国のサイバーセキュリティ企業である奇安信科技集団と、江蘇省建成市公安局が関与しているという。スパムとカモフラージュと合わせた造語で「スパモフラージュ(Spamouflage)」と呼ばれる。
この工作は党の具体的な目標に応じて偽情報を拡散する。一昨年は豪州政治に干渉し選挙の信頼を損ねようとした。このほか日本やクアッドの防衛政策を揺さぶろうとした。
政府を支援する中国の民間企業
報告書では、官民連携の工作事例を挙げる。中国政府関連機関による「ミツアナグマ作戦」と名付けられた中国共産党の宣伝キャンペーンは「米国のCIAとNSAが中国と他国に対して無責任なサイバースパイ活動を行っている」との対米批判を世界的に展開する。
この情報操作は、海外向けには米国を「悪者」として描写し同盟国やパートナー国との軋轢を生み出し、中国の政治的立場を強化することを目的としている。国内ではより中国共産党の正統性を高める狙いで拡散される。
ツイッターや新浪微博では、#USCyberHegemony、#USsurveillance、#美国黑客入侵别国、#美式霸权、#抵制云法案、#骇客美国、#霸权主义といったハッシュタグを使用し、米国を非難する皮肉な画像とともに発信されている。
ミツアナグマ作戦には、中国のサイバーセキュリティ企業である中国の奇安信科技集団が関与している。同社は中国の諜報機関、軍事、国家安全部と深い繋がりがあるとASPIは指摘している。
工作アカウントの運営者は勤務時間内で作業するようだ。北京時間の「996」(勤務時間は午前9時午後9時、週6日勤務)に投稿されているという。
影響力工作はますます創意工夫を凝らしており、アカウントはAIで製造した思われるアニメや架空の美麗な若い女性の画像を使用し、それぞれ「人格設定」されている。
活動は地球規模に拡大し、英語のみならず日本語、ロシア語、フィリピン語、韓国語、フランス語、インドネシア語、スペイン語など全世界40のコミュニティプラットフォームで確認できるという。
豪州などでは外国干渉に対抗するための法律や法執行が強化された。影響工作にあかるい学者で作家のクライブ・ハミルトン氏は、北京は実地で任務を遂行することが難しくなったため、オンライン空間を主戦場にしたのではとラジオ・フリー・アジア(RFA)に語った。
現にこうしたSNSの工作には、中国人民解放軍戦略支援部隊や国家安全部、プロパガンダ活動を監督する中央宣伝部など国家機関のほか、国営メディアや外務省の職員なども協力している。一連の嘘偽りの発信について、中国外交官や官製メディアがリツイートしたり迎合するコメントをしたりしている。
解決策
報告書は、こうした広範な中国共産党の影響工作に対処するためいくつかの解決策を提案している。
各国政府は外国の干渉をめぐる法律を見直し、SNS運営企業に国家が支援する影響力作戦の開示やその他の透明性報告書の提出を義務付けるよう求めた。
また、情報空間を「戦略の柱」と位置づけ、演説や政策文書を多言語でSNSを通じて発信し、悪質な情報工作をする国家や組織を名指しで非難するなどして偽情報の拡散抑止に努めるよう勧めた。
SNS運営企業へは、ポリシーに違反するアカウントを拒否し、特定された悪意ある行為者による影響力作戦の実施を困難にするよう求めた。
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