焦点:ブリンケン氏訪問でわかった米中の深い溝、探り合う本音

2023/06/22 更新: 2023/06/22

[ワシントン/北京 20日 ロイター] – ブリンケン米国務長官が米国の外交トップとして5年ぶりに中国を訪れ、多くの分野で危険なレベルに達している両国の緊張関係をある程度和らげたかもしれない。しかし、肝心の話し合いで大きな進展がなかったことから見ても、安心できる時間は束の間に過ぎないと言えそうだ。

18─19日のブリンケン氏訪中と習近平国家主席との会談は、実質的な成果が乏しかった。それは20日に米政府が再び中国に軍同士の対話チャネル再開を呼びかけたことや、中国がキューバに軍事訓練施設建設を計画中との報道を巡り、当のブリンケン氏が懸念を示したことからもはっきりと分かる。

ブリンケン氏と習氏の会談は、バイデン政権発足以降の米中外交で最も重大なイベントの1つだった。ただ、双方は台湾問題から米国の対中半導体輸出規制、人権問題、ロシアのウクライナ侵攻まで、互いの立場を一歩も譲らなかったように見えた。

米中ともに対話を続ける意思を強調しており、数カ月中にはイエレン財務長官やレモンド商務長官の訪中、または秦剛国務委員兼外相の訪米が実現してもおかしくはない。

こうした相互交流を経て、バイデン大統領と習氏が9月のインドでの20カ国・地域(G20)首脳会議や11月のサンフランシスコにおけるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて会談する道がはっきりとしてくる可能性もある。

実際、習氏とバイデン氏は、いずれもブリンケン氏の訪中で事態は進展したとの認識を明らかにしている。

だが、ほとんどの専門家の見方では、今後さらにハイレベルの交流が行われたとしても、米中関係の流れを変えたり、両国が台湾問題で一触即発になりかねないという懸念を払しょくしたりするのは難しい。

オーストラリア国立大学のベンジャミン・ヘルシュコビッチ研究員は「米中の基本的な関係は、過去数十年間そうだったのと同じぐらい思わしくない状態が続いている。どれほどハイレベルの議論を重ねても、両国の間で深まり続けている不信感を克服できそうにはない」と指摘。来年の米大統領選に向けて米国内で対中政策の論争が活発化する中で、米中関係は一段と悪化する公算が大きいと付け加えた。

<座席位置で波紋>

中国側も、ブリンケン氏への応接ぶりを踏まえると、米国に対して積極的に温かい態度を見せようとしたとは思えない。

習氏とブリンケン氏の会談では、テーブルの奥に習氏が、横にブリンケン氏が座る位置関係となって、従来の形式と異なったことから中国のソーシャルメディアや中国専門家の間で、米国へのぞんざいな対応の表れではないか、との憶測が乱れ飛んだ。

少なくとも過去20年間に訪中した米国務長官は、直近のトランプ前政権時代のマイク・ポンペオ氏を含めて、いずれも習氏とアームチェアを隣合わせ、あるいはテーブル越しに向かい合って会談していた。

一方、習氏は16日にマイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏と隣り合った席で会談し、ゲイツ氏を「古い友人」と呼ぶなど、ブリンケン氏に比べて「歓待」ぶりが目立っている。

それでも、センター・フォー・ア・ニュー・アメリカン・セキュリティーのジェイコブ・ストークス上席研究員は、悲観的に考え過ぎるべきでないと指摘。単純に習氏がブリンケン氏と会ったという事実は、習氏が対米関係に前向きだとのシグナルを発していることになる、との見方を示した。

「中国政府は口では反対のことを言っていても、(米国との)関与をはっきりと求めている。習氏が対話プロセスを台無しにしたいと思ったなら、ブリンケン氏と会談しなかっただろう」という。

中国には、対米関係改善を推進すべき理由が幾つもある。国内消費の低迷に苦しむ中で、西側の主要国との貿易拡大を図る必要に迫られている上に、近隣諸国に米国との競争的な関係をうまく管理できると安心させなければならないからだ。

とはいえ、中国政府高官から発せられる言葉は依然強気だ。

外務省北米大洋州局長の楊濤氏は、当初2月に予定されたブリンケン氏訪中が中国の偵察用とみられる気球を米国が撃墜した事件を受けて延期となり、結局、実現したことについて、中国の勝利だと明言した。

20日にウィーチャット(微信)の駐フランス中国大使館の公式アカウントで「この戦略的対立局面で最初に秋波を送ってきたのは米国であるのは明白だ」と強調。気球撃墜や4月の台湾の蔡英文総統による訪米で高まった緊張を緩和したいと米国側が繰り返し求めてきたので、ブリンケン氏の訪中が可能になったのだと強調した。

(David Brunnstrom記者、Yew Lun Tian記者、Martin Quin Pollard記者)

*動画を付けて再送します。

Reuters
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