衛星通信機能が国家安全保障に対する重要度が増すなか、防衛省は米スペースX社の衛星通信網「スターリンク」の実証試験を開始させている。浜田靖一防衛相は27日、「衛星通信は自衛隊の活動の基盤」と定め、抗たん性を向上させていく考えを明らかにした。中国とロシアが衛星攻撃能力を強化している現状が背景にある。
中露は他国の衛星を無力化する電波妨害装置を運用しており、通信衛星が攻撃を受ければ機能不全に陥るリスクが生じる。スターリンクは、低軌道で運用される衛星群(コンステレーション)で、通信障害の中でも安定したインターネット通信を提供することで知られる。
部分的な破壊を受けても機能維持が可能なため、通信の安定性が保たれる。浜田氏によれば今年3月から自衛隊は陸海空の部隊でスターリンクの実証実験を行っている。
浜田氏は「衛星通信は自衛隊の活動の基盤である」、「宇宙空間の安定的利用に対する脅威は近年増大しており、複数の通信衛星網を活用する等、衛星通信の抗たん性を向上させることはますます重要となっている」と強調した。
衛星をアームで掴んで…
国防の要となる衛星通信に対して、中国やロシアは無効化を図る「キラー衛星」技術の実験を行っている。ミサイルを直撃させ破壊する手段ではなく、対象となる衛星に接近しロボットアームで捕獲し、その機能を奪う実験だ。
防衛省による防衛白書2022年度版によれば、中露はアームによる捕獲のほか、攻撃対象となる衛星と地上局との間の通信を遮断する電波妨害装置(ジャマー)や、対象の衛星を攻撃するための高出力エネルギー技術(レーザー兵器)の開発にも取り組んでいる可能性を指摘している。
中国による急速な軍事宇宙能力の拡大は、米宇宙軍高官も緊張感を持って言及している。
米国宇宙軍作戦部長のデイビッド・ミラー少将は6月、シンクタンクのオンラインイベントに出席し、中国軍の宇宙能力には情報、監視、偵察、通信衛星などが含まれ、これにより中国軍が自国領域外の軍事行動をより効果的に行えるようになっていると述べた。
ミラー氏は中露への抑止のため、米国は対宇宙兵器を緊急に開発する必要性があると強調した。「もはや(宇宙空間が)戦闘領域かどうかの議論をやめ、望まぬ紛争をどう抑止し、どう我々が勝利するかについて議論しなければならない」と語った。
最近、キューバにおいて中国が「監視所」を設置したと米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。フロリダ州の軍事や民間宇宙発射、大型陸軍、海軍基地を含む東海岸を範疇に情報収集していたという。同紙によれば退役軍人のひとりは、キューバが赤道に近いことが軍事衛星の監視に向いていると述べた。
こうした背景から、日米は宇宙領域への脅威に対抗するため協力を深化させている。
6月にオースティン米国防長官が訪日した際、北朝鮮の発射実験や台湾、インド太平洋地域における中国の好戦的な行動を背景に、連携をさらに緊密化することで合意した。日米韓による北朝鮮のミサイルのリアルタイムデータ共有が策定事項に含まれている。
1月には「日・米宇宙協力に関する枠組協定」を締結し、米国が出資する月面探査計画「アルテミス」への協力も深めた。日本は月面用有人与圧ローバの開発を進めている。
日本国際問題研究所のジョナサン・ミラー上級研究員はインド太平洋フォーラム(FORUM)の取材に対して、「宇宙関連イニシアチブによって、脆弱性を抑えつつ優位性を確保できる。台湾関連の課題を含め、日本とその提携諸国は地域で将来的に発生しうる緊急事態に受益するだろう」と述べている。
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