赤信号見落とし、道路わたった歩行者にも「罰金」 暴走する監視カメラ大国=中国 上海

2023/07/11 更新: 2023/07/11

中国の各地方政府は今、深刻な財政難のなかにある。それは上海のような大都市でも例外ではなく、その傘下にある公安警察部門も同様である。いつ減給や給与の停滞が起きるかわからない。彼らも内心、びくびくしているのだ。

そこで中国の警察は今、少しでも収入を増やすために、全力をあげて交通違反の「罰金とり」に躍起になっている。

市内のあちこちに検問所を設ける交通警察は、何がなんでも「違反」の理由をつけて罰金を科そうとする。それはもはや、本来あるべき社会秩序の維持のためでは全くなく、社会を一層混乱させる原因にもなっているのだ。

ついに始まった「歩行者からの罰金徴収」

上海市内のある横断歩道でのこと。赤信号であるにもかかわらず、道路を渡った歩行者がいた。警察は、監視カメラのビッグデータから「違反者」の身元を追跡し、その携帯電話に罰金通知を送付した。

歩行者用の信号が「赤」であるにもかかわらず道路を横断することの是非を言えば、わるいに決まっている。ただ、それを罰金の対象にすることが、今までの中国で実施されてきたわけではない。

罰金が、中国で珍しいわけではない。例えば40年ほど前、筆者(鳥飼)が中国で見かけた光景は、田舎の駅の構内でかじったリンゴの芯を投げ捨てた若い男に対し、すぐさま美化係のおばさんが飛んできて、キップを切って罰金を要求していた。たしか0.5元ぐらいだったように思う。若い男は、ふてくされながら汚い紙幣を渡していた。

そもそも中国人にとって、交通ルールを遵守する意識は乏しい。言葉を換えれば、信号無視の道路横断など中国には無数にある。したがって、それを全て「罰金」の対象にすれば、いくらでも徴収(搾取?)できるのだ。

このように、中国の街を埋め尽くす監視カメラのビッグデータは「歩行者の小さな交通ルール違反」をあぶり出し、携帯電話を追跡して、一つ一つは少額ながらも罰金を科すことに活用できる。使う側にとっては、まことに「優れた機能」と言ってよい。

「監視カメラ」を何に使うのか?

では、それが可能ならば、中国全土に無数にいる「行方不明の子供」を、なぜ本気で探さないのか。中国の警察は何をやっているのかと、憤りにちかい疑問を抱かざるを得ないのだ。

その答えは、およそはっきりしている。警察が所属する権力の側と、子供の行方不明に関与する人身売買などの闇組織が、どこかでつながっているからだろう。

昨年10月、15歳の少年が学校から行方不明になり、今年1月に変死体で発見された「胡鑫宇(こきんう)事件」がその典型でる。発見時の遺体の状況などに多くの不審点があるにもかかわらず、地元警察はわざわざ記者会見を開き、「少年が自分の意思で自殺した」と強引に結論づけてしまった。

もちろん、そのような警察発表を信じる人間はいない。「将来ある15歳の胡鑫宇君は、臓器収奪のターゲットにされた」というのが、中国における巷間の「定説」にさえなっている。警察は、その真相を知りながら隠蔽したのである。

「上海は、どうしてこうなったのか?」

今回「うっかり緑信号(青信号)でないときに」道路を横断し「交通ルール違反」で罰金を科された上海の女性(写真の黄色シャツの女性)は、自身の経験を共有するため動画をSNSに投稿し、注目を集めている。

 

 

それによると「ある日、突然、上海交警(交通警察)から携帯にメールが届いた。(私が)7月1日に交差点で信号に従わず『ルール違反』した様子が監視カメラに映っているとして、交警のアプリをダウンロードするか、あるいは直接交通管理部門に行って罰金を支払うよう求められた」という。

女性は交通警察の指示に従ってアプリをダウンロードし、自身の「違法記録」を調べたところ、夫と一緒に横断歩道を渡る際の複数枚の写真が出てきた。女性はアリペイ(Alipay)を使って、罰金の20元(約400円)を支払った。

女性は「うっかり信号を見落としただけなのに」「上海は、どうしてこうなってしまったのか。ほんと、信じられない」と嘆くばかりだ。

史上空前、大規模な「罰金とり」

近年、中国内の各地方政府の財政は逼迫しており、どの分野においても、役所が実施する民衆に対する罰金のかけ方は「史上空前」の規模となっている。

6月1日、四川省成都市の男性市民は「スマホで通話しながら道路を渡った」として、交通警察から5元(約100円)の罰金を科された。この男性は「全国初の、歩きスマホで罰金をとられた人物」とされており、関連動画はネット上で熱い議論を巻き起こした。

これに先立ち、浙江省や河南省など多くの地域では、道路を横断中(横断歩道をふくむ)に「携帯電話などの電子機器を見たり、操作したりすれば罰金を科す」と通告している。罰金額は最高で200元(約4000円)である。

当局はこれを「歩行者と車両の安全のためだ」と主張しているが、民衆の側には「金を取りたいだけだろ」とする声が広がっている。

ほかにも、「数束の野菜を売った」というだけで「10万元(約200万円)」の罰金を科された農民や、2年間で58回もの違反切符(罰金合計、約540万円)を切られた貨物車ドライバーがいた。

こうした当局の「こじつけ」の例を挙げれば、きりがない。

河南省は中国国内でも有数の小麦の産地であるが、その収穫地へ向かう道路に「臨時検問所」が設けられて、法外な罰金が徴収されているという。

地元当局が罰金を科す理由は「収穫機械(コンバイン)を積んだトラックの車高が高すぎる」「車の幅が広すぎる」「越境(登録区域外の)作業許可証がない」などである。検問所で、いきなり反則切符を突きつけられるドライバーにしてみれば、理不尽以外の何物でもないだろう。

したがって、先述の「金を取りたいだけだろ」という民衆の声には、一定の真実があると見てよい。中国は今、いろいろなところから崩れ始めている。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
関連特集: 中国