政権批判の歌「削除しなければ逮捕する」 海外在住の華人シンガーに迫る、中国海外警察の魔手

2023/07/18 更新: 2023/07/19

海外に在住する華人のシンガーソングライター「Crazy老張」が最近、中国の現政権を批判するプロテストソング「七級浮屠」をつくり、自身のツイッターなどSNS上で発表した。

この歌「七級浮屠」は、習近平指導部を痛烈に風刺するとともに、近年中国国内で起きた数多くの悲劇が歌詞に盛り込まれている。

そうした「Crazy老張」に対して、中国当局から直接電話があり「投稿やアカウント削除をしなければ、お前を逮捕する」などの脅迫や圧力がかけられていたことがわかった。

国外にも及ぶ「中国海外警察の魔手」

「Crazy老張」の中国国内にいる家族の複数のSNSアカウントは、すでに当局によって削除されている。

それだけでなく、海外の自由主義国に在住する華人が、中国共産党に対して反体制的な活動をした場合にも、現地国にとって非合法組織である「中国海外警察」が異見者を妨害するため圧力や脅迫をかけている実態がある。それには、華人アーティストによる美術や音楽などの芸術活動も含まれる。

今回、中国当局が敏感になっているのは、シンガーソングライター「Crazy老張」によるオリジナル曲「七級浮屠」である。

華人圏で今注目を集めているこの歌には、臓器収奪の犠牲になった子供とその死を悲しむ母親。ゼロコロナ政策下の封鎖中におきた、新疆のマンション火災の犠牲者。さらには、ロックダウン期間中に起こった様々な人的災害など、中国共産党が近年の中国にもたらした各種の災難や不条理について描くとともに、こうした中共の暴政に対して「いま反抗しなければ死ぬだけだ」と人々を鼓舞し、勇気づける内容となっている。

以下に、その歌詞の一部を紹介する。

「14億人が住む都市の中から、響き渡る絶望の声を聞いた」
「泡と氷に包まれた子供の体を見た」
「内臓を失った遺体を抱きかかえて泣く母親を見た」
「火災の中で死神と闘う人が助けを求めて叫ぶ声を聞いた」

「この土地にはきっと勇敢な人たちがいる。そう固く信じている」
「ここで反抗しなければ、死ぬだけだ」
「彼を、恐れさせるほどの雄叫びを上げよう」

歌詞のなかにある「彼」とは誰のことか。この人物について、歌詞のなかに下記のような描述がある。

「100kgの小麦を担いで5kmの山道を歩いた」(習近平国家主席の発言)
「本をいくら読んでも、文字を読む時はピンイン(日本でいうフリガナ)が必要な小学生」(習氏は以前「名著をたくさん読んだ」と自慢したことがある。その割には、演説原稿の文字を読み間違うことが多い。また、習氏が中学生のときに文革が始まり、学校が閉鎖されたので、習氏の最終学歴は「小学校卒」ともいわれる。後年、清華大学の大学院で法学博士の学位を得るが、論文代筆の疑惑がある)

そして決め手は、この一句「彼は、14億人を引き連れて滅亡へ向かおうとしている(他要帯領14億人走向滅亡)」である。

つまり「彼」とは、名指ししてはいないものの、現国家主席・習近平その人を言っているのは明らかだ。

作曲者への電話「削除しなければ逮捕するぞ」

中国の暗黒面を歌詞にしたのがいけなかったのか。あるいは、習近平国家主席への皮肉が含まれていたことが「本人」の逆鱗に触れたのか。

いずれにせよ、海外のシンガーソングライターが作曲し、ギター1本をかかえて歌う「七級浮屠」は、中国共産党の「中央」から直々に削除命令が出されたのである。

「七級浮屠」という曲名の真意については、作者に聞かなければ分からないことだが、中国でよく知られている成語に「救人一命勝造七級浮屠(一人の命を救うことは、七重塔を建てる功徳に勝る)」というものがある。

その語義からの推測ではあるが、「いま中共の暴政の犠牲になろうとしている一人ひとりの命を救うこと、それが何よりも大切なのだ」というメッセージが、この歌に込められているのではないか。

「Crazy老張」は13日にSNSへ投稿した自撮り動画のなかで、自身が現在受けている中共からの圧力について語っている。

(「Crazy老張」による自撮り動画)

「ここ数日、私の携帯に複数の相手から大量の着信があった。電話の相手は網信辦(中国政府のインターネット情報管理部門)、公安局、国安局を名乗っている。彼らは私に対して、ツイッターに投稿したオリジナル曲(七級浮屠)の完全削除、およびツイッターアカウントの削除を求めた」

電話をかけてきた相手に「なぜ削除しなければならないのか?」と聞くと、相手は「それが良からぬ影響をもたらしているからだ。中央からの直接命令(文書)が下った。指示通りに動かなければ(お前を)逮捕するぞ」と脅迫されたという。

「Crazy老張」によると、自身の妻のウィーチャット(微信)や中国版TikTok「抖音」、中国版インスタ「小紅書」などの中国SNSのアカウントは全て削除されたという。

「私は脅迫に屈しない」

中共中央からの直接命令を受けたという「名だたる機関」から、直接の接触および脅迫を受けるケースは、そう多くはない。それだけこの「七級浮屠」に、中共は神経を尖らせていることが伺われる。

「Crazy老張」は、自撮り動画のなかで「(削除せよと要求された)ツイッターアカウントは削除しない。これからも私は投稿を続ける」として、中国海外警察の脅迫に一歩も引き下がらない覚悟を表明した。

この一件が華人圏で拡散されたことにより、中国当局が問題視し封殺を試みた歌「七級浮屠」は注目され、かえって有名になった。

「この歌には、中国人であれば誰でもその魂を打たれるだろう。道理を全くわきまえない人間でさえ悟らせるくらい、教え導くことのできる良い歌だ」とする称賛のコメントが殺到するとともに、作曲者「Crazy老張」への支持の声も広がっている。

新型コロナの感染が拡大した時期、「Crazy老張」は中国国内で行われていた過剰な防疫政策を批判する曲「圍(かこんで封鎖する、の意味)」も発表している。

(シンガーソングライター「Crazy老張」によるオリジナル曲「七級浮屠」)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
関連特集: 中国