日本最大の投資銀行である野村ホールディングスの関連会社幹部、王仲何氏が中国当局により出国禁止措置を受けていると、英紙が報じている。外国企業による中国市場への投資リスクが改めて浮き彫りとなり、投資家やビジネス関係者に対して警戒感が一層強まっている。
日本外務省の小林麻紀外務報道官は27日の記者会見で、同幹部が中国本土から出国停止になった事案について「状況を注視している」としたものの、「拘束されたとの情報には接していない」と述べた。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)25日付によれば、王氏は中国本土からの出国が禁止されているものの、拘留されてはいない。エポックタイムズは野村証券に問い合わせたが、回答を差し控えるとした。
FTによれば、この措置は中国の融資機関、華興資本の創業者、包凡氏の調査と関連しているとみられる。華興資本は、京東、360、愛奇芸、陌陌などの中国の主要なインターネット企業のクライアントで、2022年6月末時点での資産管理規模は4860億元(約9兆円)に達している。
包凡氏は今年2月に突如として消息を絶った。その後、華興資本は「包凡氏は中国の公式の調査に協力している」との声明を発表。この事件は、前年9月に華興資本の社長であり、華興証券の会長である叢林氏が取り調べを受けたことと関連があるとみなされている。
中国のメディア「界面新聞」によれば、叢林氏は過去に中国の四大国有銀行の一つ、工商銀行で30年以上勤務しており、2017年に包凡氏の招きで華興証券に移籍した。その直前、華興資本は工商銀行から2億ドルの大型融資を受けていた。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、叢林氏が工商銀行での地位を利用して、華興資本との「取引条件」を整えた疑惑があると報じている。
出国禁止処置を受けた王仲何氏も、2011年から2016年まで工商銀行で勤務、FTが伝える情報筋によれば、王氏は工商銀行在籍時に叢林氏と共に仕事をしていたという。この経歴が、彼が中国当局からの出国禁止処置を受ける原因となった可能性がある。
王仲何氏は、野村証券の中国投資銀行部門の主席として香港に常駐しており、過去には工商銀行国際、中德証券、ドイツ銀行、メリルリンチなどでの経験を持つ。2022年、野村証券が中国でつくった合弁会社「野村東方国際証券」代表に就任した。
中国外交部の汪文斌報道官は25日の定例記者会見で、王仲何氏の出国禁止についての情報はないと述べつつ、中国は常に市場主義、法の支配、国際化のビジネス環境を提供していると強調した。
野村の中国経済の低評価が要因?
出国禁止命令の理由は明らかにされていない。有識者たちは、国際的な影響力を持つ野村証券が、中国経済に低評価を下していることが一因ではないかとの見方もある。
香港の人権報道賞受賞者でベテランライターの莫莉花氏は「中国政府は野村証券のようなアジアで有名な投資機関を非常に警戒している。特に近年の野村証券の報告書は、中国の経済発展の見通しを継続的に低く評価した。この要因で、多くの外国企業や多国籍企業の地域本部が決断を迷っている」と述べた。
台湾国立政治大学法学院博士の賴榮偉氏は、王仲何氏の出国禁止は表面上は包凡氏と叢林氏の調査と関連しているが、背後には他の事情がある可能性があるとみている。
「中国政治の措置で最も多くの理由は汚職・腐敗関連だ。国家の安全性の観点から、これらの人々が外国の勢力と結託しているか、外部に情報を漏らしているかどうかを考慮している」
さらに賴氏は、王仲何氏に対する措置を解いたとしても、いわゆる“チャイナリスク”というネガティブな評価は払拭できないと見ている。
中国経済の見通しの悪さを指摘するのは野村証券だけではない。18日に上海の米国商会が発表した調査によれば、調査対象の40%が対中投資を見直しているとの調査結果を発表した。地政学的な緊張や経済の減速が米国企業の悲観的なムードを増加させ、楽観的な見通しを持つ企業の割合は最低水準に落ち込んだ。
今回の王仲何氏に対する出国禁止措置も経済の萎縮効果をもたらすと考えられている。賴氏は次のように続ける。「現在、中国経済は良好ではない。彼ら(外資)は入るより出ていくことを強く望んでいる」「中国(当局)の最近の数か月の行動は、中国の経済をさらに悪化させるだけだ」
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