オピニオン 上岡龍次コラム

ヒットラーの過ちと中国共産党の過ちを習近平が繋ぐ

2023/10/08 更新: 2023/10/08

歴史は繰り返す

3000年の戦争史を見ると類似のパターンを繰り返すことが知られており、時として“歴史は繰り返す”と言われる時が有る。これは時の権力者が求める方向性が同じなので成功と失敗は時代を超えて繰り返すことになる。最近の例ではドイツのヒットラーと中国共産党の歴代国家主席が行なっている覇権拡大政策が近い。

ドイツのヒットラーは西に覇権を拡大しフランス戦役で勝利してイギリス上陸作戦を計画するが失敗。南の北アフリカ戦線が拡大しイギリス上陸作戦に必要な戦力が拘束されてしまう。さらにヒットラーは東のソ連に侵攻し三正面作戦に拡大したことで戦力が分散し決定的な勝利が得られなくなる。

中国は建国時から西に覇権を拡大し東トルキスタン・チベットに侵攻。インドと領土問題で対立するが南の南シナ海で覇権を拡大して敵を増加させた。さらに東の台湾・日本・アメリカと覇権を拡大させヒットラーと同じ三正面作戦に拡大した。習近平は三正面作戦を解消するどころかインドとの対立関係を悪化させ、さらに南シナ海を世界の火薬庫に変えてしまう。同時に台湾への軍事侵攻を火遊びに変えて人民解放軍の戦力分散を続けている。習近平はヒットラーから何も学ばず中国共産党を誤った道へ進ませている。

類似の失敗

紀元前264年から紀元前146年まで共和制ローマとカルタゴによる三回のポエニ戦争が続けられた。大陸国家ローマと海洋国家カルタゴの覇権が衝突し新進気鋭のローマ海軍と経験豊富なカルタゴ海軍の海戦が続いたが成長したローマ海軍が最終的には勝利した。

本来ならば経験豊富なカルタゴ海軍が勝利するかと思われたが、第一次ポエニ戦争最後の海戦である紀元前241年エガテス諸島沖の海戦で油断したカルタゴ海軍はローマ海軍に敗北した。

カルタゴ海軍はローマ海軍との海戦を予期しておらず戦闘艦にも食料を満載しシチリア島西端を航行中にローマ海軍に補足され撃破される。カルタゴ海軍はエガテス諸島沖の海戦の敗北で艦隊戦力を失い共和制ローマと不利な条件で講和し地中海の制海権を失い二度と復活することはできなかった。

古代日本は征韓征伐を実行し朝鮮半島の38度線まで覇権を置いたとされる。当時の日本の水軍として三島水軍が制海権を握り300年近く優勢だったと伝えられる。だが西暦663年白村江の戦いで三島水軍は慢心から戦闘艦に食料を満載し無警戒で眠りにつく。そんな時に唐・新羅連合軍の水軍は夜襲で三島水軍を撃破した。その後の調査で三島水軍は50%の損害を受けたと推測されており二度と再建することができなかった。

カルタゴ海軍と三島水軍は時代と場所が異なるが失敗した原因は共通している。成功すればパクリと言われるが失敗までパクらない。だが慢心こそが時と場所を超えて共通した過ちの例となった。

ヒットラーと中国共産党の失敗

初期段階のヒットラーは覇権拡大を西に限定していた時はドイツ軍の戦力を西に集中投入できたので破壊力が有った。フランスを撃破し渡洋作戦でイギリス上陸作戦を計画していたがイタリアが北アフリカで敗北したことで代わりにドイツ軍を派遣し北アフリカ戦線を作ってしまう。

イギリスとしてはドイツ軍の上陸を阻止するために強引に北アフリカ戦線を拡大するしか選択肢が無い。何故ならドイツ軍の戦力が分散するからイギリスへの戦力が減少する。イギリスとしても危険な策になるがバトル・オブ・ブリテンで勝利するとドイツ軍によるイギリス上陸作戦の破砕に成功する。

ヒットラーはバトル・オブ・ブリテンの敗北を無視して北アフリカ戦線を抱えたまま東のソ連に侵攻し独ソ戦を開始した。西は潜在的な戦線なので実質的に三正面作戦になり戦力が分散したことで何処でも決定的な勝利が得られない。そして連合軍が反撃を開始すると西・南・東の三方向から連合軍がドイツに侵攻することになりドイツは最終的に敗北した。

中国共産党は建国時から西に覇権を拡大し東トルキスタン・チベットを併合しさらにインド方向に覇権を拡大するが進めない。この時から中国共産党は迷走し出口を求めて東の台湾侵攻を模索するが失敗。すると南シナ海に覇権を拡大するが周辺諸国の抵抗で南シナ海から出られない。

基本的に中国共産党は主敵をアメリカとしているが西のインドに喧嘩を売ったかと思えば東の台湾・アメリカに喧嘩を売り。さらに南シナ海の関係諸国に喧嘩を売るので常に方針が迷走している。これは中国共産党に明確な戦略が無いことから国家主席が変わる度に覇権拡大の方向が変わっていると推測できる。

習近平は歴代国家主席の過ちに致命的な失敗を加えている。それが一帯一路構想であり人民解放軍海軍が太平洋から黄海の戦域でアメリカ海軍と雌雄を決する構想を破砕した。何故なら一帯一路構想は中国共産党の覇権を太平洋・南シナ海・インド洋まで置くから人民解放軍の陸海軍戦力を分散させてしまう。

さらに太平洋で作戦することを想定していた人民解放軍海軍の設計・運用を世界規模に変更することは、根本的に設計・運用を変更することを意味している。さらに運用が世界規模への活動になるから訓練と兵站まで変更しなければならない。この様な変更は基本的に30年の歳月が必要なので、人民解放軍海軍が蓄積した運用ノウハウを妨害したのだ。

中国共産党の歴代国家主席の戦略が迷走しているだけではなく習近平は人民解放軍の設計・運用・訓練・兵站まで変えたのだ。しかも一帯一路構想は海路と陸路なので人民解放軍を世界規模に展開させる基地ネットワークが必要になった。こうなるとアメリカ海軍と戦うために必要な海外の基地ネットワーク建設が進まない。代わりに南シナ海とインド洋に基地ネットワークを作るから全てが中途半端になっている。

中国は南シナ海に人工島を建設し基地化したが金食い虫を増産してしまう。実際に第二次世界大戦時にアメリカ海軍はウルシー環礁を基地化して日本海軍と戦った。ウルシー環礁は戦略的には重要な位置に存在するが維持費が高いので戦争が終わると即座に放棄されている。

人工島の基地化は戦時に建設し平時に放棄するのが基本。そうでなければ維持費が続かない。つまり習近平は一帯一路構想と南シナ海で中国共産党の資産を散財しているのだ。さらに中国経済は人民解放軍を維持することが困難になりバブルが弾けると中国共産党を破壊する未来が間近に迫っている。

習近平は敗戦投手

中国共産党に明確な覇権拡大の方向が無いから迷走し経済力を失うことになった。習近平は中国共産党を強化するどころか人民解放軍の設計・運用・基地ネットワークを混乱させた。このため人民解放軍の将官は習近平に不満を持つ者が多いはずで、人民解放軍の高官が相次いで解任されているのは習近平に不満を持ったことが原因だと推測する。

結果的に習近平は自ら人民解放軍の頭脳を捨てたので次は習近平のイエスマンしか残らないだろう。そうなれば人民解放軍は改善できない組織になり西・南・東からの軍事的圧力に対抗できず敗北する道を進むだろう。そうなれば習近平は敗戦投手として中国共産党に引導を渡すことになる。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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