「恐ろしい雰囲気だった」
匿名を求めた米連邦準備制度(FRB) 高位関係者(以下、A氏と称する)は、中国当局に拘留された記憶を思い出しながらこのように表現した。
昨年7月、米国上院国土安全保障委員会所属の共和党議員が公開したところによると、2019年、A氏は中国上海を訪問した後、拘束されて尋問を受けた。中国当局はA氏の家族を脅し、携帯電話を盗聴し、彼らのコンピューターに侵入した。 これと共に、他のFRB関係者の連絡先情報をコピーしていった。
2019年は、米国と中国間の貿易戦争が頂点に達した時期だった。A氏によると、中国当局はセンシティブな機密経済データを取り出そうとしており、A氏に貿易関税などの経済議題について「米国政府高官にアドバイスをするように」と要求していた。内容は「中国に良い言葉を言ってほしい」という要旨だった。A氏は強引に酒を飲まされ、この過程で経済情報を収集しようとする中国政府の圧力に悩まされた。
A氏の経験談は、グローバル超大国という米国の地位を奪おうとする中国の長期戦の一例に過ぎない。中国は米国の経済など様々な部門の政策を弱体化させるため、10年以上このような長期戦を展開してきた。
カナダ安全保障情報局(CSIS)でアジア・太平洋担当局長を務めたミシェル・ジュノ・カツヤ氏は、中国共産党(中共)政権の浸透技術に忍耐力と徹底性、そして長期的な視点という特徴を見出し「中国は非常に総体的なアプローチをしている」「中国には指導部を交代させる民主的な選挙手続きがない。だから、中国は今日植えた種子の実を5年、10年、15年後に収穫できることを知っている」とエポックタイムズに語った。
マイク・ブラウン米上院議員もこれに同意し、エポックタイムズとのインタビューで「中国は長いゲームをしている」と述べている。
中国の時を待つ
昨年、米国国家情報局(DNI)傘下の国家諜報安全保障センター(NCSC)は、連邦、州、地方自治体レベルの米国当局者のうち、中共政権のコントロールから自由な人はほとんどいないと警告した。
中共は自身の戦略である「地方から中央を包囲する」戦略に基づき、現在、米国当局者との関係を利用して、中国政権に有利な政策を支持するよう米国に圧力をかけることができる。
例えば、ダイアン・ファインシュタイン上院議員の運転手として20年間働いた人物が中国のスパイであることが後になって明らかになった。
別の事例もある。中国の最高情報機関である中国国家安全部所属の中国スパイと推定されるクリスティン・ファンは、少なくとも2人以上の米国中西部地域の都市市長との関係を通じて影響力を行使した。
例えば、2014年、ファンは当時ダブリン市議会議員だったエリック・スワルウェル氏に近づき、再選キャンペーンのための資金を集め、スワルウェル議員のオフィススタッフを選ぶことに関与した。
ファンの活動を注視していた米情報当局が調査に着手すると、ファンは突然出国した。米下院倫理委員会は、スワルウェル議員に「外国政府が贈り物やその他の相互作用を通じて不適切な影響力を確保しようとする可能性を引き続き監視すること」を求めた。
一方、ニューヨークの中国秘密警察の運営者とされる中国系米国人のルジェンワン氏は、兄とともに、近年、米国民主党全国委員会の副委員長であるグレース・マング下院議員、エリック・アダムスニューヨーク市長、キャシー・ホーチックニューヨーク州知事など、ニューヨークを拠点とする政治家に数万ドルを寄付した。
ワシントンのシンクタンク、フリーダムハウスの中国問題専門家、サラ・クック上級研究員は「地方政府や州政府当局者は、中国のこのような影響力を行使しようとする努力についてよく知らない」とエポックタイムズに語った。
クック研究員は「中共は、人々を自分たちの味方に引き付け、自分たちが望むことに関心を持たせることに非常に熟練している。関係形成の初期には、ほとんどの人々がその事実に気づいていないようだ」と説明した。
中国の影響力行使は、米国の政治家のキャリアの初期から始まる。クリスティン・ファンがスワルウェル議員が市議会議員だった頃からアプローチしたケースが代表的な例だ。
ジュノ・カツヤ元局長は「中国は非常に忍耐強く、時間的にも余裕がある」と分析する。
彼によると、中国の情報担当官は西側世界で5~10年間、模範市民として活動し、西側社会で昇進するよう教育される。その後に初めて本格的な「活動」を開始する。
また「情報局や警察が身元調査をしようとしても何も見つからない」とし、「非常に深い秘密工作員が社会に植え付けられるのだ」と指摘する。
「公然と嘘をつく」
台湾、ウイグル族、法輪功、天安門…中共を刺激する要素は無数にある。中国共産党政権は、中国以外でも、どこにおいても党の意思に反する行動をしてはならないという主張を堂々と展開している。
今年3月、米下院はクリス・スミス下院議員が発議した「2023年強制臓器摘出禁止法」を圧倒的賛成で可決した。翌日、スミス議員側は駐米中国大使館参事官が送ったメール一通を受け取った。
メールには、この法案を指して「ばかばかしい」という皮肉と一緒に「中国で強制臓器摘出が横行しているという話は、ばかげた話としか言いようがない」という主張が書かれていた。
続いて中国大使館側は「当該法案を含め、米国は根拠のない誇大宣伝と反中国的な動きを止めるべきだ」と要求した。
スミス議員は、メールに言及された中国の主張について「中国は公然と嘘をついている」と述べた。
実際、2019年、ロンドンの独立裁判所は中国で数年間、かなりの規模で強制臓器摘出が行われていると結論付けた。目撃者をはじめ、多くの内部告発者がエポックタイムズに証言を寄せてくれた。
スミス議員はエポックタイムズに「法輪功学習者とウイグル族は臓器摘出目的で殺害されている。その数は私たちが知っているように毎年数万人に達する」と批判した。
今年4月、スミス議員は、約100万人のウイグル族が強制収容所に収容されているとされる新疆ウイグル自治区を訪問するため、中国にビザを申請した。中国は10月現在、ビザを発行していない。
ジョシュ・ホリー共和党上院議員も中国大使館参事官から似たような手紙を受け取った。中国大使館側はホリー議員にCOVID-19発祥地関連情報の機密解除命令法案を撤回するよう要求した。
ホリー議員は自身のSNSに投稿した文章を通じて「中国政府が私に手紙を送り、『COVID-19起源法』を撤回するよう要求した」と明かした。
中国大使館は、COVID-19の起源に関する米議会の公聴会も阻止しようとしたほか、台湾の蔡英文総統がロサンゼルスを訪問している間、米国の政治家に蔡英文総統に会わないよう圧力をかけた。
この過程で同様に中国の脅迫状を受け取ったアシュリー・ヒンソン共和党下院議員は、「米国国民を代表する選出された議員にこのような要求をする中国政権に怒りを覚えた」と声を上げた。
エポックタイムズのインタビューに応じたヒンソン議員は、「私は中国側に『あなたは私が誰に会えるか、誰に会えないかを指示する権利がない』と言った」と伝えた。
萎縮効果
ヒンソン議員のような人々の反発にもかかわらず、中共がこのような脅迫を続ける理由は「萎縮効果」にあるとクック研究員は説明した。
萎縮効果とは、考えを自ら検閲することで、自由に考えたり表現したりできなくなる現象だ。クック研究員は「今回は(脅迫が)効果がないかもしれないが、次回は何か行動を起こす前にもう一度考えさせることができる」と述べた。
中国関係者が米国の政治家に潜在的な結果を思い出させれば、政治家は今は中国側の声を無視しても、次回は論争を避ける方向に決定を下させることができるという意味だ。
スミス議員とホリー議員は「中共批判のベテラン」だ。両議員は中国政権の制裁リストに並んで名を連ねた。二人の議員にとって、中国共産党政権の制裁はむしろ喜ばしいことだが、誰もがそうとは限らない。
2017年、当時のカリフォルニア州上院議員ジョエル・アンダーソン氏は、カリフォルニア州が中国政権による法輪功の迫害に反対する立場を取るという議案を州議会に提出した。この決議は州司法委員会を満場一致で通過した。
それから2日後、サンフランシスコ駐在中国領事館はカリフォルニア州上院議員に一通の手紙を送った。
その直後、アンダーソン元議員と一緒に決議案を支持した同僚議員の間で萎縮効果が現れ始めた。その後、アンダーソン元議員は決議案を採決にかけようと18回も試みたが、すべて失敗に終わった。
同僚議員は、時間が経った後、「(手紙を受け取った後、)話をしたくなくなった」とエポックタイムズに打ち明けた。
クック研究員は、中国の工作に慣れていない人は、中共による嫌がらせの影響を受けやすく、そのような嫌がらせがどのくらいの頻度で行われているのか知らない場合はさらに危険だという。クック研究員は、「(中国の)脅威の一部は虚勢に過ぎない」と強調した。
(続く)
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