地政学的な要因や中国経済の減速を受けて、西側諸国は中国に対するリスク回避を進めている。これにより、外資系企業は中国を離れ、中国での生産を減らす動きが加速しており、代わりに東南アジア、東欧、メキシコなどからの製品調達が増加している。
サプライチェーンの移動と外資の撤退が進む中、人民元と中国経済に打撃を与えている。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が3月に中国に関して初めて「リスク回避」の概念を提唱し、5月のG7サミットでこの概念が声明に記載された。この「リスク回避」は、6月と7月の西側諸国の首脳の外交訪問で頻繁に言及され、西側諸国の対中方針の新たな共通認識となっている。
11月17日のロイター通信によれば、フロリダ州に本社を置く家具会社Industry Westの最高経営責任者(CEO)で共同創業者であるジョーダン・イングランド氏は「中国からの撤退を検討している」と述べている。
2018年に米国が中国製品に対して関税を課した後、多くの企業が中国のサプライヤーに完全に依存しないための多様化戦略を開始した。イングランド氏は今や中国のサプライヤーとしての価値は上から数えて10位以下だと述べている。
外資系企業の収益再投資拒否と資金の撤退
今年の大部分にわたり、外国の投資家は中国市場に不満を持っている。過去1か月に公開されたデータは、西側諸国のリスク回避戦略が中国経済に与えるマイナス影響を明確に示している。
10月、中国の公式製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.5に低下し、1か月ぶりに縮小の領域に再び落ち込んだ。同時に、輸出も急速に減少している。7~9月にかけての外国からの直接投資は初めて季節的な逆差を記録し、資本の流出が顕著になっている。
ピーターソン国際経済研究所のシニアリサーチャー、ニコラス・ラーディ氏はある報告書で、新たなデータが、外国企業が収益を再投資することを拒否し、さらに既存の投資を売却して資金を母国に送金していることを示していると述べた。
ラーディ氏は、このような傾向は人民元をさらに弱体化させ、中国の経済成長の潜在力を削ぐ可能性があると付け加えた。
中国経済の長期的な見通しに対する懸念
外国企業は長い間、地政学的なリスク、中国共産党による厳格な規制、中国の国有企業に有利な競争環境に懸念を抱いていた。これは、40年間、外国企業の上層部が初めて中国における長期的な成長見通しに懸念を示したことである。
米シンクタンクのコンファレンスボードは、今年上半期に行った調査で、外国企業が中国に対して「より厳しい」見方をしていることを示し、販売見通しの低下、資本投資と雇用の見込みが50未満のマイナス領域に入っていることを明らかにした。
回答したCEOのうち3分の2以上が、中国の需要がコロナ前の水準に戻っていないと述べ、今後半年の資本投資に対する見通しは暗いとしている。彼らの40%が今後6か月以内に中国への資本投資が減少すると予想し、半年前には中国への資本投資が減少すると予想していたCEOの割合は9%であった。
このシンクタンクは先月、主に米国と欧州の企業の中国地区CEOを対象に35社の多国籍企業に対して調査を行った。
英国のある経営者も、中国の不動産市場の深刻な低迷にどのように対応するかについて、国内市場向けに生産する中国のサプライヤーを心配している。
「私は、これらの工場の従業員数が500人から200人へ、さらには100人に減少するのではないかと心配している」と述べた。
中国共産党の提案に対する疑念
貿易機関は、中国共産党の広範な反スパイ法、コンサルティング会社とデューデリジェンス会社への突然の検査、海外企業への出国禁止令を踏まえると、李強首相が「中国は外国の投資家に対して開放する」という発表をしたとしても、一部の西側企業の取締役会は疑念を持っていると指摘する。
また欧州の企業は、中国共産党が中国製造業者に提供する貸し出しに関して、公正な競争ができるかどうかに懸念を表明する。
カナダ・中国貿易理事会の董事と総経理長であるノア・フレーザー氏は、2018~21年にかけて2人のカナダ人が中国共産党に拘束されたことの影響が未だ残っていると述べる。
プライベートエクイティ分野では、アジアに焦点を当てたファンドが中国に資金を配置しているが、プライベートエクイティ、ヘッジファンド、不動産などオルタナティブ(代替的)資産業界に特化した情報を提供しているPreqin(プレキン)社のデータによれば、2023年11月24日までに中国に特化した資金調達ファンドは存在しなかった。それに対し、2022年の投資額は2億1千万ドル(約312億820万円)、2019年の投資額は132億ドル(約1兆9616億円)だった。
春華資本の創始者、胡祖六氏は外国企業が持続している3つの懸念を挙げている。
中国のマクロ経済の不確実性の増加、資本市場の展望の暗さ、中国共産党がハイテク企業や教育業界などの高成長産業に対して行った抑圧や規制。
胡氏は、「ハイテク企業やその他の民間企業は、公共市場を利用して資金調達と流動性を得る必要がある。そのため、現在の中国市場の状況は実体経済にかなりの損害を与えている」と述べる。
彼はさらに、中国に焦点を当てたプライベートエクイティ会社が資金を東南アジア、豪州、欧州へと移していると付け加える。
4月27日、米国の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリバン氏は政策演説で、リスク軽減とは本質的に弾力性と効果のあるサプライチェーンを意味し、どの国にも脅かされないよう確保することを意味すると述べた。
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