顔認証技術で知られる中国AI大手、商湯科技(センスタイム)は16日、共同創業者の湯暁鴎氏が病気のため逝去したと発表した。55歳だった。訃報を受け、18日の香港市場の同社株は18%下落した。民間企業とされるが、中国共産党の指導のもと国有機関が資本を管理していた。
香港市場に提出された商湯科技の年次報告によれば、湯氏が同社株の21%を保有している。このほか、中国の電子商取引大手アリババと日本の通信大手ソフトバンクも初期出資者だが、近年の業績悪化により比率を引き下げていた。
ソフトバンク子会社、米制裁リスト入りの中国AI企業サービス提供 総務省なども導入
いっぽう、上海の金融メディア勤務の姚氏(匿名)によれば、商湯科技は政府資本によって支配されていた企業だという。
「湯氏は以前、香港中文大学の教壇に立ち、その後商湯科技を設立、取締役社長に就任した。表面的には富裕層にみえるが、実際には政府が企業を管理している。国内の多くの企業もそうだが、表向きには個人が株を保有しているが、政府が株をコントロールしている」
11月28日には、調査会社グリズリー・リサーチが商湯科技の中核であるAI事業について「収益を水増ししている」と指摘。同社の株価は年初から40%以上、IPO以来では80%近く急落した。
グリズリーの報告によれば、中国国内はAI分野の競争が激化し、当局の規制も厳しくなり「顔認識ソフトウェア事業は行き詰まっている。いくつかのAI研究プロジェクトを行っているが、今後の利益拡大の可能性はほとんどない」と評価した。
商湯科技は湯氏の死因について具体的に言及していない。病死と公表されたが、他のメディアは「睡眠中に亡くなった」「ビルからの転落死」などさまざまな情報が飛び交っている。
23年の香港の富豪ランクングでは、湯氏の純資産は会社の継続的な赤字により約6割減少し、25億米ドルだった。
商湯科技は、中国共産党の科学技術部門から初めてAIサービスを提供する許可を得た企業の一つ。顔認証技術サービスは中国のみならず、日本を含む外国企業にも提供していた。しかし、19年や21年に、人権侵害への加担や軍民融合企業として米当局の制裁リスト入りして、投資や米国部品の入手は制限された。
いっぽう、中国共産党が重視するAI企業の創業者の死去が、中国のAI分野に与える影響は限定的とみられている。すでに先端分野を率いる企業ではなかったというのだ。AI研究に携わる中国の有識者は匿名でラジオフリーアジアの取材に語った。
「湯氏のような大規模データのアルゴリズムは実際には原理が非常に単純で、ソフトウェアも簡単だ。制約となるのは半導体の性能で、これがなければ計算能力もない。数十万枚の画像から一人の人物を見つけ出すためには、優れた半導体が必要だ」
この数年で同社の計算能力は低下している。「これ以上の革新は不可能だ。湯氏の死は奇妙で注目に値する。混合所有(民間と国有が出資する)の企業だった」
最近では、米バイデン政権が中国共産党に対するAI関連半導体や技術の輸出をさらに厳しくする方針を示しているため、商湯科技の前途には既に障壁が存在していた。
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