経済悪化に伴う収入減、ひいては失業の嵐が吹き荒れる中国。若者は将来に希望を見いだせないばかりか、子供をもつ家庭でも、我が子に対して、何を教育し、何を授けたらよいか、親は途方に暮れている。
近い将来に起こり得る「海外脱出」に備えて、子供に英語を学ばせようと思う親は確実にいる。しかし、子供の情操教育のために、ピアノのレッスンを受けさせようと考える親は、今の中国では極めて少ないのが現状だ。
かつて、経済状態が良好であった頃の中国では、中産階級の家庭でもピアノを購入し、子供にピアノのレッスンを受けさせる親は多かった。マンションや自家用車の購入とともに、子供にピアノを買い与えることが、中国における成功者の証でもあったからだ。
そのピアノが、今では全く売れていない。そのため、大量のピアノショップが廃業へ追い込まれている。個人レッスンを請け負っていたピアノ教師も、職を失った。
ピアノの販売量は、平均的にピーク時の15%にまで落ち込んでいる。そのため「多くのピアノ卸売り業者や小売業者、ピアノショップが廃業を余儀なくされている」現状がある。
中古ピアノ販売業に20年以上携わってきたある業者は、次のように明かす。
「近年、中間所得層の収入が減ったため、ピアノの販売量は激減した。多くの卸売りから小売業者、ピアノ販売店は軒並み廃業に追い込まれている」
あるピアノ工場の経営者によると「昨年までで、ピアノ工場の半数はつぶれた。(中国の)ピアノ業界は完全に終わった。5、6万元(約100~120万円)で買ったピアノが、今では5千元(10万円)でも売れない」という。
また、ある楽器協会の副事務局長は「昨年のピアノの売れ行きは、断崖式に落ち込んでしまった。ピアノを習う人も、ピアノを買う人も、一夜にして消えてしまったようだ」と嘆いている。
中国メディア「封面新聞」15日付は、業界で20年以上の経験をもつ中古ピアノ販売業、范さんを取材した。
「今はピアノを習う人が減っているため、ピアノの売り上げが激減し、業界全体に深刻な影響を与えている」「中古ピアノ販売業者やピアノショップの半数はつぶれた。プレッシャーもなく、正常に経営できているピアノショップは、本当に稀だと思うよ」
范さんは「2023年はピアノ業界にとって、まさに厳冬だった」と表現した。
ピアノ販売量激減の背景について、范さんは「近年では、中間層の収入が減った。今後の収入の見通しも含めて、将来への期待は難しいため、ピアノを習うのを止めるケースが多い」と分析している。
また、范さんによると「ピアノの売れ行きが下降線をたどりはじめたのは、2019年以降だ」という。奇しくも、2019年末からのゼロコロナ政策期間と重なっている。
「それが昨年4月以降になると、まさに急降下の勢いとなった。今では以前の販売台数の30%を維持できれば『非常に優秀』な部類に入る。業界内の平均的なピアノ販売台数は以前の15%程度、ひどい場合は10%程度しか売れない」
そう嘆く范さんも「私も将来的には、この業界を抜けようと思う」と明かした。
江蘇省蘇州市で音楽教育に携わっている崔さん(仮名)によると、「現在、ピアノを習っている生徒は、最盛期の半数ほどだ。平日にレッスンを受けに来る生徒は、ほとんどいない」と明かしている。
ピアノ業界の「厳しい冬」に関する報道が伝えられると、ネット上では激しい議論が巻き起こった。
「(親の)収入が期待できないなかで、もう子供にピアノを習わせる余裕がなくなった」と、厳しい経済状況を表明する親も少なくない。
なかには「ピアノが弾けて、絵が描ける。それでも大きくなったらフードデリバリーの仕事しかない。それならば、始めから良いバイクを買って、今のうちに運転の練習をしておいたほうがいい。遅かれ早かれ、配達の仕事しかないのだから」といった、昨今の世相を嘆く声もあった。
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