中国で今年、ネットユーザーを中心に注目されている歌がある。中国共産党を痛烈に風刺し、現職の中共党首をこき下ろす「龍的傳人(龍の継承者)」だ。
今の中国共産党体制における社会の不条理を並べて、とことん揶揄するこのパロディソングは、もちろん中国のネット上では当局の封殺に遭っている。
しかし、それは同時にこの歌が真実を突いており、中共当局にとって拡散されたくないものであることの証明でもある。言い換えれば、たかが流行歌に怯えるほど、中共は確実に揺らいでいるのだ。
「龍の継承者」を利用した中共に、しっぺ返し
この「龍的傳人(龍の継承者)」という歌のタイトルは、1978年に台湾のシンガーソングライター・侯徳健氏(現在はニュージーランド国籍)がつくり、中国でもポピュラーになった歌「龍的傳人」と全く同じである。
今回、それと同じタイトルにしたところに作者・黄明志氏の狙いがあるのだろう。もちろん2024年版の「龍的傳人」は、歌詞もメロディも異なる、全く別の歌である。
なお、1978年12月発表の「龍的傳人」について補足すると、米国が1979年1月1日をもって中華民国(台湾)と断交し、大陸の共産中国と国交を樹立するという歴史的背景があった。
侯徳健氏の「龍的傳人」には、当時の台湾人からみた「中国大陸への郷愁」を誘うような基調がある。そのため中共はこれを歓迎し、大陸側でも大いに流行させた。
また、この歌を政治的に利用するため、侯徳健氏を北京へ招いてCCTVの年越し番組「春晩(春節聯歓晩会)」で歌わせたりもした。もちろん、その時の客席には、大陸側にいる侯氏の親族も呼ばれて来ている。
このような手の込んだ演出をした中共側の理由は何か。中共にとって最も望ましくないことは、台湾の人びとが中国を切り離して「台湾人アイデンティティ」を確立してしまうことである。したがって中共は、台湾生まれの流行歌を利用して「切り離せない一つの中国」を演出したのだ。
いっぽう、いま注目を浴びている同じタイトルの歌、つまり2024年版の「龍的傳人」は、盆踊り動画「Tokyo Bon」で日本でも大人気のマレーシア人歌手・Namewee(黄明志)氏による作詞作曲だ。歌の動画には、もちろん作者である黄明志氏も出演している。
そのミュージックビデオのなかで、モザイクがかりの「くまのプーさん」のお面をつけ、黄袍(中国皇帝の衣装)を着た太った人物が声を発している。人工的に作られたその音声は、現職の中共党首・習近平の声によく似ている。
「この龍的傳人を、2024年の辰年を祝賀する新曲として発表する」。劇中の皇帝である「くまのプーさん」は、そのように述べ「反対者がいなければ可決する」と宣言した。
それはまさに習近平が、2022年10月の中国共産党第20回党大会で、異例の連続3期となる党総書記の権力を掌握した場面の再現であった。
こうして黄明志氏による2024年版の「龍的傳人」は、かつて同じタイトルの歌を政治的に利用した中共に対して、手痛い「しっぺ返し」を食わせるものになった。
「僕らはみんな、龍の継承者だよ」
歌は軽快なラップ調である。「我們都是龍的傳人(僕らはみんな、龍の継承者だよ)」のリフレインが、中共を笑い飛ばすように何度も続く。
歌詞のどの部分を聞いても、中国人なら全て思い当たる「中国社会の不条理」が、痛烈な皮肉としてふんだんに盛り込まれている。
さらに「龍的傳人」の歌詞のなかには「日本の処理水」「ゼロコロナ」「貧困撲滅」「六四天安門事件」「韮菜(ニラ、搾取される人民の例え)」といった敏感ワードも数多く含まれている。
この2024年版「龍的傳人」に、中共当局の神経がキレるのも無理はない。なぜならば、こんな歌が民間に流行していると党首に知られたら、いつ自身の首が飛ぶか知れないからだ。
ところで この新曲を本当に「新年の祝賀ソング」と勘違いして、中国版TikTok「抖音」へ関連投稿した中国人ネットユーザーがいた。このユーザーは、なんとその日のうちに、中国SNSアカウントを永久凍結されてしまう。
このネットユーザーは、自身の持つ別の中国SNS「小紅書」でこの件について語った。それによると「歌詞のどこに問題があるのか、わからないけど」と前置きしながらも、「みんなもアカウント凍結されないよう、気をつけてね」と注意喚起している。
思いもかけずアカウント凍結されたこの気の毒なユーザーも、中国共産党による情報封鎖や洗脳の被害者の1人であろう。
1月26日にYouTubeで公開された「龍的傳人(龍の継承者)」は、はじめの2週間余りで800万回以上再生されるヒット曲となっている。
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