中国においては、今や「口にしてはならない」話題が実に多い。うっかり口にしたことや、何気なく見かけた光景を撮影してネット投稿しただけで、地元警察から「特別な扱い」を受けることもあるのだ。
「民政局(中国で結婚や離婚の届けを出す役所の部門)における離婚申請ブーム」は、2月20日の中国SNSのホットリサーチ入りした。そのきっかけとなったのは、あるユーザーが「結婚するより、離婚するカップルが多い」と動画投稿したことだ。ところが、そのために投稿者が警察に拘束される事態になった。
中共の神経を「逆なで」すれば拘束
中共当局にすれば、深刻化する少子化になんとか歯止めをかけようと、あの手この手で結婚や出産を呼びかけているなかであり、それを逆なでするような「ホットな話題」は望んでいない。
そこで、この「離婚ブーム」トピックスに火を付けるきっかけになった動画の投稿者が、地元警察から「特別な扱い」を受けたことがわかった。なんと警察に拘留されてしまったのである。
旧正月の休みが明けた民政局の業務日の初日(2月18日)。この日に結婚手続きをするため、民政局へやってきた安徽省淮南市の市民・王さん(女性)がいた。ところが、王さんがそこで目にしたのは、離婚手続きをするために来た人々の長蛇の列だった。
そこで彼女は、その様子を動画に撮影し「旧正月明けの業務日の初日。ここにいるのは、みんな離婚手続きをするために来た人。結婚する人より多い」という説明を添えてSNSに投稿した。
この話題がSNSのホットリサーチ入りしたその日(20日)、王さんは「デマを散布した」として現地公安に行政拘留される。そのことが更にニュースとなり、この問題を一層広めた。
「デマを散布した」という問題の動画は、以下のものである。
映像を見る限り、そこは人が多い役所の窓口というだけで、特に反体制的なニュアンスなどはない。ところが当局は「離婚する者が多い」という動画の添え書きに、過敏なほどの「拒絶反応」を見せたようだ。
(「デマを散布した」という問題の動画。人が多い役所の窓口というだけで、特に反体制的なニュアンスなどはない)
「中共が断定するデマ」は、それが真実だから
「中共当局が『デマ』と断定して、もみ消しに躍起になるのは、それが真実であるからだ」
このことは、すでに中国では常識であると言ってよい。当局が過去に「デマ」呼んだものが真実だったことは、中国人はこれまでの多くの経験から知っている。つまり、中共が「デマだ」と言えば、それは中共が隠蔽したい真実なのだ。
例えば、有名な例としては2019年12月、中国武漢で「ウイルス感染はじまり警鐘者」の1人として警告を発した李文亮医師がいた。
武漢の眼科医・李文亮医師は、中国における新型コロナ発生の最も初期の段階で、中国政府の発表前から「原因不明の肺炎の存在」をいち早く察知し、同僚の医師たちに警告を発した。
しかし、李医師は「デマを散布した」として、武漢の公安当局に呼び出され、訓戒処分を受ける。当局の処分に服する署名をさせられるとともに、国営の中国中央テレビ(CCTV)の報道番組でも、連日のように「デマ散布者」として伝えられた。その後、李医師は自らも中共ウイルス(新型コロナウイルス)に感染し、翌年2月7日に妻子を残したまま死亡する。享年33歳だった。
若く誠実な医師・李文亮氏の死から4年が経つ現在、真実を語って弾圧された李医師の無念を想起するとともに、都合の悪いものは何でも「デマ」と決めつけて、その「もみ消し」に躍起になる中共当局の欺瞞性を改めて感じた人は少なくない。
今回「民政局の離婚登記所にできた長蛇の列」は裏付け動画もあり、何より撮影者が拘留されている。そうすると、この当局が「デマ」だと主張することは、紛れもない真実である可能性が高い。
中国で今、離婚する人が急増している原因には、本当に夫婦間の愛情がなくなった事例だけとは限らず、例えば住宅ローンなど各種の借金の返済義務を回避するため、あえて離婚を選択した結果であるとする見方もある。
しかし、いずれにしても離婚件数の激増は、中共当局が進めようとする「人口増加」に反する動向であるため、中共にとってはまさに「都合の悪いもの」なのだ。
その動画を投稿したことにより地元警察から「特別な扱い」を受けたのは、投稿者にしてみれば、まったく迷惑で、理不尽な災難であったと言うしかない。
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