ロシアによるウクライナ戦争が続く一方、中国共産党による台湾有事のリスクが高まっている。世界最大の軍事力を備える米国は、力の配分という難題に直面する。専門家の2人は「米国はウクライナより台湾を優先すべき」を論題にした安全保障政策をめぐる議論を通じて、米国の課題をあぶり出した。
米国防副次官補代理を務めた戦略家エルブリッジ・コルビー氏とイェール大学のティモシー・スナイダー歴史学教授は6日、米ローレンス・バークレー国立研究所で行われた討論会で意見を交わした。
コルビー氏は、米国は台湾防衛のために資源を集中すべきだと主張した。ロシアの10倍のGDPを数え軍事増強を進める中国(共産党)こそ米国にとって最大の脅威であり、さらに「台湾が中国に占領されれば、米国のアジアにおける信頼性が大きく損なわれ、同盟国の結束が揺らぎかねない」と指摘した。
さらに、米国は戦争を同時に2つ以上戦う余力はないとし、資源の集中が不可欠だと訴えた。「ウクライナだけでなく、中東、ラテンアメリカ、アフリカなどの地域も、優先すべき台湾問題の後回し」となり、困難な選択を迫られると述べた。
一方、スナイダー教授は、ウクライナ支援を優先することが台湾侵攻の抑止につながると反論した。「ウクライナでの長期戦は、中国に攻撃の困難さを認識させる効果がある」
さらに、ウクライナが敗北した場合、核拡散や国際法の軽視など世界的な悪影響が予想されると警告した。「ジェノサイドを許容することにもつながりかねない」と危惧を示した。
このほか、ウクライナ支援を通じて得られる運用上の教訓の価値を強調した。例えば、ウクライナの同盟国が開発している海上ドローンは、台湾への水陸両用侵攻を阻止するための鍵となると指摘。
「ウクライナ軍が使用している武器の多くは、中国軍が保有するロシア製兵器と同じシステムだ。これらの兵器がウクライナの戦場でどのように機能するかを観察することで、我々は中国の軍事力に対抗する手がかりを得ることができる」と述べた。
討論では、同盟国との連携の重要性では両者の見解が一致した。コルビー氏は、「欧州の同盟国は、ウクライナ支援においてもっと役割を果たすべきだ」と述べた。スナイダー教授も、「米国の信頼性は同盟国との協調行動にかかっている」と指摘した。
しかし、資源配分の優先順位をめぐっては平行線をたどった。コルビー氏は、「中国の脅威に対して十分な軍事態勢を整えるには、困難だが不可欠な選択が必要だ」と力説。スナイダー教授は、「ウクライナ支援か台湾防衛かの二者択一ではない」と反論し、「ウクライナ支援なくして台湾の安全は確保できない」と主張した。
会場からは、「台湾問題の歴史的背景と現在の危機をどう捉えるべきか」、「ウクライナや台湾の戦略的重要性をどう評価するか」など、活発な質問が相次いだ。コルビー氏は「台湾有事のリスクは差し迫っている」と危機感を示す一方、スナイダー教授は「ウクライナでの勝利なくして、同盟国の結束は望めない」と訴えた。
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