イランがイスラエルにまだ報復しない理由

2024/08/19 更新: 2024/08/19

数週間前、イスラエルが遠隔操作による爆弾を用いてイランの首都でハマスの指導者ハニヤ氏を暗殺した。この事件以降、イランは度々イスラエルに対する報復を公言してきた。たとえば、8月2日にはイランのメディアが「数時間以内に世界が非常に恐ろしい状況に直面することになる」と報じている。

しかし、実際には今日までイランからの大規模な報復は確認されていない。特に、「ワシントンポスト」の最近の記事では、アメリカの外交的な仲介と軍事的な圧力がイランの決断に影響を与え、イランがイスラエルへの報復を控えている可能性を指摘している。では、イランがイスラエルに対して報復をしない理由は何か。

第一の理由 アメリカとイスラエルの強固な軍事体制

アメリカはアイゼンハワー級の航空母艦を中東に派遣し、F-22戦闘機をイギリス経由で中東に配備している。

アメリカ空軍の報告によれば、アメリカ中央軍は8月8日に中東地域にF-22「ラプター」を配備した。この動きは、イランからの脅威に対してイスラエルやアメリカ軍を守るための対策である。情報筋によれば、F-22戦闘機約十数機がアラスカ州エルメンドルフ空軍基地から出発し、8800キロメートル以上飛行して中東に到着した。途中、北米大陸と大西洋を越え、イギリスのRAFラケンヒース基地で短期間滞在した後、地中海を通過し、給油機の援助を得て中東に到着している。

その他、北カロライナ州の基地から出発したF-15E戦闘機はすでに中東に到着しており、イタリアのアヴィアーノ基地に駐留していた第510戦闘機中隊のF-16も中東へ移動している。また、米ミシガン州の第107戦闘機連隊のA-10「ウォートホッグ」攻撃機も中東での展開を進めている。

今年4月にイランがイスラエルを攻撃した際、ヨーロッパに配備されていたF-35戦闘機が70機以上のイラン製ドローンを撃墜し、目立った戦果を上げたと報告している。

最近、アメリカ政府は海軍が運用するE-2D「アドバンスド・ホークアイ」早期警戒機とHC-130給油機が中東上空を飛行する様子を公開した。これらの機体は第115空挺指揮中隊に所属し、現在、空母セオドア・ルーズベルトに配備していると見られる。

E-2D早期警戒機には先進的なAN/APY-9レーダーを装備しており、その監視能力は非常に高い。イランが打ち上げるミサイルやその他の飛行体は、この機体によって全方位からの追跡が可能である。アメリカの航空母艦には通常4~5機のE-2Dが配備され、対象エリアを24時間体制で監視している。

空軍のみならず、アメリカはイスラエル周辺の海域にも複数の艦船を展開しており、空母セオドア・ルーズベルト打撃群やワスプ級強襲揚陸艦の特遣隊がその中に含まれる。これらの部隊には4千人の海兵隊員が所属している。また、エイブラハム・リンカーン号航空母艦の戦闘群はオマーン湾にも展開し、イラン近海でのプレゼンスを示している。

今年の4月にイランがイスラエルへの攻撃を試みた際、アメリカ海軍はアーレイ・バーク級とカーニー級の駆逐艦からスタンダード・ミサイル3 (SM-3)を使用してイランの弾道ミサイルを迎撃した。これはスタンダード・ミサイル3が実際の戦闘で使われた初のケースである。

アメリカは中東に航空母戦闘群二つと強襲揚陸艦特遣隊一つを配備し、4千人の海兵隊員を配置している。さらに、アメリカ空軍はF-22、F-15、F-16などの最新型戦闘機を中東と地中海地域に派遣し、4月以降、これらの軍事力を増強している。

これらの部隊は、防衛任務を担当する際には、イランからのドローンやミサイルを迎撃する能力を持つ。攻撃モードに切り替えた場合、巡航ミサイルを使ってイランに対して長距離からの打撃が可能である。地上戦になった場合、海兵隊が迅速に展開し、A-10「ウォートホッグ」攻撃機もその威力を発揮する。アメリカとイスラエルは完璧に準備を整えており、イランが何らかの行動を起こしても、その影響は小さく抑えられると予想する。

第二の理由 イランのイスラエル攻撃手段には限界がある

4月にイランはイスラエルへの大規模な空爆を実施したが、ドローンやミサイルを含む攻撃は限定的な影響しかもたらさなかった。4月14日、イスラエル国防軍は戦闘の詳細を発表し、イランから発射された170機のドローンはイスラエル国境の外で全て撃墜され、イスラエル領空への侵入はなかったと報告した。さらに、発射した30発の巡航ミサイルのうち、25発はイスラエル空軍が、残りの5発は同盟国が撃墜した。

イランの攻撃で主力を占めたのは120発の弾道ミサイルであり、そのほとんどがイスラエルの同盟国によって迎撃された。目標に到達したのはわずか7発である。つまり、イランがイスラエルに向けて放った300機以上のドローンとミサイルのうち、実際に目標に到達し脅威となったのは7発の中距離弾道ミサイルだけであった。これらのミサイルは主にイスラエル南部のネゲブ砂漠にある空軍基地の近くに落下した。

翌日に公開した衛星画像を見ると、空軍基地に大きな損傷は確認されず、現場の映像によれば、いくつかのミサイルは基地から外れて周囲の砂漠地帯に落ちたことが分かる。

イランとイスラエルは地理的に離れた位置にあり、その中間にはシリア、イラク、ヨルダンなどの国が位置している。イランがイスラエルに対して行う脅威の主な手段はドローンやミサイルであり、これまでの空爆は成功していない。アメリカとイスラエルが警戒を強めている状況で、イランが新たに実施する長距離攻撃が成功する見込みは低いと考えられる。

第三の理由 イランの防空能力の限界

ロシアのショイグ国防相が最近、イランを訪問し関係者と会談を行った。報道によれば、ロシアはイランにさらに進んだ防空システムを提供する計画である。これはイランが自国の防空迎撃能力に不安を感じていることを示唆している。

今年、イスラエルは反撃の一環として、遠方から発射した弾道ミサイルにより、イランのS-300防空車両を精密に攻撃した。S-300はイランが有する最先端の防空システムであり、これを破壊すればイスラエルはイラン国内のどの目標も攻撃できるようになる。もしイランがイスラエルに報復するならば、イスラエルは確実に応戦し、その結果イランはさらに困難な状況に陥ることが予想される。

イランはこの状況を認識しており、S-400というロシア製のより進んだ防空システムの導入を急いでいる。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、イランはイスラエルとの緊張に備えてロシアから最新の防空システムを要請しており、ロシアはこれを前向きに対応しているという。

イランの防空能力は、現在外国製の武器に大きく依存している。2007年にロシアから導入された4個大隊分のS-300システムが、イランの防空の中核を担っている。さらに、冷戦時代のS-200防空システムが3基稼働しており、国内で製造したロシア製武器のコピー品や、中国製の紅旗2型防空システムを9セット保有している。これらの装備は、S-300を除き、ほとんどが冷戦時代のものであり、イスラエルやアメリカの最新型攻撃武器には十分な抵抗力を持ち合わせていないと考えられる。

イランがS-400防空システムを手に入れたとしても、それだけでは国の防衛は完全ではない。ウクライナの戦場では、ウクライナ軍が陸軍戦術ミサイルを使ってS-300やS-400を破壊している。これらのミサイルはアメリカの兵器の中でも古く、性能が劣り、退役が予定されている弾道ミサイルであり、最高速度はマッハ3である。このようなミサイルでさえ撃墜が困難な場合、アメリカやイスラエルのより高度なミサイルに対しては、さらに防御が難しくなると言える。

イランの現況を総合的に見れば、攻撃力でイスラエルに大きな打撃を与えることができず、防衛面でも弱点が多い。このような状況の中で、イランは言葉での反撃を選ぶのが、合理的な選択であると言える。

イスラエル、台湾にとっての模範

自国の安全は、決して敵の情けに頼るべきではない。特に理不尽な強国が相手の場合、譲歩すればするほど、その相手はさらに攻撃的になる。

イスラエルは台湾にとって参考になる事例である。周囲に敵が多くても、自国が強力であれば、敵は介入しにくくなる。また、かつての敵国も徐々に友好国に変わりつつある。例えば、ヨルダンは今年4月の攻撃時に、イスラエルとアメリカに積極的に領空を提供し、イラン製ドローンの撃墜に協力した。サウジアラビアやエジプトなども、最近になってイスラエルに対する態度を大きく転換している。

台湾においては、国の防衛力を向上させる行為は中国共産党からは、挑戦と捉えられ、「軍事力を増強するほど逆効果だ」との認識が存在する。しかし、この理論が正しいとするならば、韓国は国防産業の拡大を中止し、軍を解体すべきだという結論に至る。イスラエルについても同様で、多数の武器開発は不要であり、国民全員が兵役を経験することは過酷であると言える。自国の兵士が武器を手放し農業に専念すれば、敵国も同情心を抱くという発想である。しかし、自国の軍事力強化が敵への挑発行為にあたるとする非論理的な主張には、耳を傾けるべきではない。

周子定
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