石破氏のもと、対中関係はどのようになるだろうか。
対中政策について、高市氏は「タカ派」、石破茂氏は「ハト派」とみなされている。中共にとって、高市氏が当選しなくて安堵した一方、石破氏に対しても一定程度警戒していると考えられる。
憲法改正については、石破氏も他候補らと同様に賛成で、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定める9条2項削除および国防軍の明記を表明している。親中共系のニュースサイトは、石破氏が掲げる9条2項削除および国防軍の明記に対し、不快感を隠せていない。
また、外交および防衛政策については、石破氏は「拒否的抑止力の着実な向上と新時代にふさわしい多国間安全保障体制を構築する」と述べており、沖縄の基地負担の軽減のため、日米地位協定の見直しを提唱し、自衛隊を米領グアムに駐留させる案も示している。
特に、国内外で注目されているのが、アジア版北大西洋条約機構(NATO)の創設だ。
先日、米シンクタンク「ハドソン研究所」への寄稿で、アジア版NATOについて説明。「アジアにはNATOのような集団的自衛権が存在しない。つまり、(同盟国間には)相互防衛の義務がないため、戦争が勃発する可能性が高い」との持論を展開している。
台湾の輔仁大学日本語学科・何思慎教授は、「国防の面では、石破氏の方が高市氏よりも穏当だ」と述べつつ、「石破氏の防衛力増強の訴えは、同氏は軍事拡張主義者であることを意味するものではなく、インド太平洋地域における安全保障環境の変化に対応していることを意味している」との認識を示した。
台湾国策研究院・郭育仁副院長は、「日本がアジア版NATOの設立を望むなら、アジアで戦争が起きる可能性が最も高いのは朝鮮半島と台湾海峡であるため、日本は台湾との国交樹立を検討する必要がある」と指摘した。
こうした中、中共側も敏感に反応している。中共外交部の林剣(りん けん)報道官は27日、同日に行われた自民党の総裁選で石破氏が当選したことについて、「日本の内政なので論評しない」と述べたうえで、日本側に対し「前向きで理性的な対中政策を実行するよう望む」と注文をつけた。
林剣・副報道局長は27日、自民党総裁に選出された石破茂氏が8月に台湾を訪問したことについて「中国は日本の政治家が台湾を訪問することに一貫して断固反対している」と述べた。
石破氏は、日米同盟や米韓同盟、米比同盟などの枠組みを「有機的に結合することを考えていくべきだ」と述べている。中共が「核心的利益の核心」と位置付ける台湾統一や南シナ海への海洋進出に歯止めをかける可能性もある。
中国共産党はNATOのインド太平洋への拡大に猛反発してきた。昨年6月、シンガポールで開催されたシャングリラ安全保障対話での演説で、昨年10月に国防相を解任された李尚福は、米国が「アジア太平洋のNATO化」を促進し、この地域での「紛争と対立」を助長していると非難。
元駐米大使の崔天凱も「われわれはアジア版NATOを必要としておらず、われわれの地域におけるNATOの役割が拡大するのを望んでいない」と主張している。
一方、米政府関係者は「アジア版NATO」創設の考えを支持していない。先月17日、ダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、ワシントンのシンクタンク、スティムソンセンターで「アジア版NATO構想は性急すぎる」と述べていた。
「誰が首相でも、中共と露骨に結託する勇気はない」
石破茂・元幹事長が総裁選前の8月に台湾を訪問している。台湾の頼清徳(らい せいとく)総統と会談した。林剣副報道局長は27日の記者会見で、日本の政治関係者の訪台に「一貫して断固反対している」と非難しており、中共側の警戒感を高めている。
また、29日のフジテレビの番組で、日本人男児刺殺事件の犯行動機などを説明しない中共側の対応を「話にならない」と一喝。
時事評論家の李沐陽氏は、「誰が日本の新首相になろうが、中国共産党にとっては同じ。というのは、今の日本の民間の反共感情が強まっているので、誰が新首相になろうと、中共と露骨に結託する勇気はないだろう」と指摘している。
そのうえで、「アメリカは両党ともに反共である、日本はアメリカを見捨てて中共に歩み寄ることはありえない」と述べた。
さらに、李沐陽氏は、「岸田首相はずっと我慢してきたが、やはり最終的にこれ以上我慢できなくなったようだ。日本は東アジア地域で初めて艦艇を台湾海峡に派遣し、通過させた国となった」と述べている。
中露の軍事的挑発が続く中、日本は毅然とした態度に出ている。海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が25日、自衛隊発足以来、初めて台湾海峡を通過し、中共をけん制する狙いがあるとみられる。岸田首相が政府内で検討を進めた結果、護衛艦の派遣を指示した。
「石破氏も過去は中共に比較的友好的だったが、今となっては彼も日本の民意を考慮せざるを得ない状況に追い込まれているだろう、人は変わる」
中山大学中国・アジア太平洋地域研究所の郭育仁教授兼所長は、「岸田氏の退任前かつ中共と日本の軍事関係が悪化している今のタイミングで艦艇を通過させたのは、次期首相に道筋を示し、手本とする狙いがある」との見方を示した。
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