公金不正利用の温床か USAIDはいかにして共和党の信用を失ったか

2025/02/23 更新: 2025/02/23

アメリカ合衆国の理想と支援精神を象徴する政府機関が、ここ数年で腐敗し切っていたと、共和党議員は指摘する。

1961年の選挙で勝利したジョン・F・ケネディ元大統領は、その楽観的なビジョンを掲げ、国民を鼓舞した。ケネディ氏は就任演説で国民に対し、人類の繁栄へ貢献していこうと呼びかけた。

「だから、同胞たちよ。祖国があなたのためにできることを問うのではなく、あなたが祖国のためにできることを問いなさい」「世界の同胞よ。アメリカがあなたのためにできることを問うのではなく、我々が自由を守るために手を携えてできることを考えようではないか」

就任して数か月後には「平和部隊(日本の青年海外協力隊に相当)」が創設され、アポロ計画もスタート。その同時期に米国国際開発庁(USAID)が設立された。

USAIDとは、もっぱら海外において政治、経済、社会各方面の団体設立を支援し、市民の生活の質を向上するためだけに組織された政府機関だ。

これは、64年前の話である。

現在、USAIDは大統領、そして共和党を中心とするアメリカ連邦議会の信用を失い、閉鎖の危機に瀕している。

USAIDの支持者は、トランプ政権によるUSAIDの閉鎖と組織改革を、支出優先度に対する干渉もしくは対外支援の徹底的な遮断だとみなしている。

しかし共和党は、開発援助や支援制度を廃止したいのではなく、USAIDをアメリカの対外政策に資するものへと引き戻すことが目的だとしている。

かつてはアメリカの崇高なビジョンを象徴する政府機関だったものが、いかにして組織改革の対象になったのか。

創設理念

1961年、USAIDは「対外援助法」の施行に合わせて設立された。対外援助法では、「アメリカ人の自由、経済的な繁栄、そして安全」を維持するために、安定かつ経済発展が見込まれる発展途上国の国際社会への参加を支援することがなによりも重要だ、としている。

USAIDのウェブアーカイブには、目標達成のための具体的な政策が記録されている。60年代は技術・資金援助、70年代には食糧、衛生、教育、人口計画などの分野に注力した。

USAIDの幹部らに話をするジョン・F・ケネディ大統領(当時)(Robert Knudsen)

80年代は自由市場の発展に力点をおき、90年代には持続可能な発展へと焦点が移る。その際、発展途上国はそれぞれの必要に応じたオーダーメイドの対外支援パッケージを受け取った。2000年に入ると、USAIDは紛争などで傷ついた国の復興支援を担った。

この間、USAIDは徐々に業務を外注するようになり、民間のボランティア団体からはじまり、非政府組織、民間の諸団体、財団や基金などに業務を委託していった。

役割の拡大

1998年、アメリカ議会はクリントン大統領(当時)の要請の下で対外政策機関の組織改変を行った。USAIDはこの時に国務省の管轄下から外れ、独立した組織となった。

2000年代に入ってUSAIDの支出は急激に増加し、2001年の70億ドルから2010年には180億ドル近くにまで膨らむ。2023年現在、同機関の支出は420億ドル(約6兆2674億円)に上る。

同時期(2001〜23年)の政府全体の支出も、1兆8千億ドル(1840億ドルの黒字)から6兆1千億ドル(1兆7千億ドルの赤字)にまで膨らんでいる。

2000年代初頭、USAIDの支持者らは、開発援助をより一層アメリカの対外政策へと組み込み、同機関の役割を拡大すべきだと主張した。

2009年、アンドリュー・ナツィオス元USAID長官は上院議会に対し、「USAIDの長官は米国家安全保障会議(NSC)をはじめとするハイレベルな省庁間会議のメンバーになるべきだ」と語った。

それが実現すれば、国務長官、財務長官、国防長官、国家安全保障担当補佐官などの閣僚と並び、大統領および副大統領と共に国家安全保障問題の意思決定に携わることができる。

不透明な管理体制

USAIDはこれまでに多くの成果を収め、特に1100億ドルを投じた「米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)」は2003年から現在に至るまで、世界中で2600万人の命を救ったとされている。

ところが、組織の管理体制と財務状況に関する疑問が浮上し始めている。

USAIDによる寄付で届いた医薬品を運ぶスタッフ。アフガニスタン・カブール(Mariam Kosha/AFP via Getty Images)

ジェスフォード元米国会計検査院(GAO)国際・貿易チーム長は2003年、「USAIDの予算と任務が拡大する一方で経験豊かな人員が削減されており、USAIDの対外支援プログラムに対する監督能力に疑問が投げかけられている」と警告した。

2009年に当時のオバマ大統領も連邦機関による業務の外部委託に言及し、「大幅なコスト超過、あからさまな詐欺行為、監督能力と情報開示の欠如などの問題がある」と警鐘を鳴らした。

同年にロバート・メネンデス元上院議員(民主党、ニュージャージー州)も「USAIDの情報開示を強化し、透明性と具体性の向上」を求め、「改革のスピードを上げる必要がある」と述べていた。

GAOおよび監察総監室(OIG)の調査の結果、USAIDの資金調達に深刻な問題があることが発覚した。これらの警告が裏付けられる形となった。

GAOの調査によれば、USAIDが外部機関を経由して100万ドル近い資金を武漢ウイルス研究所に提供していた。武漢ウイルス研究所は、米中央情報局(CIA)から新型コロナウイルス(COVID-19)の流出源の一つとして指摘されている。

USAIDを担当する監察官によると、2015~18年にわたってシリアの人道支援を目的とした900万ドルが、不正な委託業者を通じて武装団体に流れていたことが明らかになった。武装組織の中には、アメリカが国際テロ組織に指定する「ヌスラ戦線(アルカイダの直系組織)」もある。

2023年、上院外交委員会トップのジム・リッシュ上院議員(共和党、アイダホ州)はガザ地区への資金援助に疑問を呈した。

「パレスチナ人はテロリスト集団と結託して彼らの利益を追求している」「なぜUSAIDは2億5千万ドルの追加支援を要求しているのか。背後にある利害関係は何か」

質問に対するサマンサ・パワー元USAID長官の回答を受け、外交委員会トップ(当時)のマイケル・マコール下院議員(共和党、テキサス州)も同様の懸念を示した。

「私はただアメリカの納税者のお金が直接タリバンの手に渡っていないことを確認したいのだ。それを否定できないことは問題だ」

荷下ろしをするシリアの帰還難民(John Moore/Getty Images)

パワー元長官は資金問題に対して、100か国以上で遂行中のプロジェクト概要を説明するにとどまった。

トム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)は2024年にパワー氏への書簡で、「イスラエル、そしてアメリカの敵対組織にアメリカの資金が流れている。これは道徳的、戦略的な失敗であり、アメリカの納税者に対する裏切りだ。その意味でUSAIDは罪深い」と述べた。

政府効率化省(DOGE)を主導するイーロン・マスク氏は2月11日に記者団に対して、DOGEがUSAID内で「巨額の詐欺行為」を発見した、と詳細を伏せて述べた。

「我々は2週間のうちに、おそらく数十億ドルを超える規模の不適切な資金移動を特定した。その額は想像できないものになるだろう」「そのほとんどは無能と不正によって引き起こされた」

CNNの記者が2月6日のインタビューでパワー元長官に批判の原因について尋ねると、「誤情報だ」「多くの嘘がUSAIDをめぐって飛び交っている」と反論した。

監督に対する抵抗

不適切な予算運用が指摘される中、議員らもUSAIDの消極的な対応に苛立ちを見せていた。

2011〜25年まで上院議員を務めたマルコ・ルビオ現米国務長官は2月4日に記者団に対し、「我々は20年、30年にわたってUSAIDの改革を試みてきたが、一度も協力を得られなかった。議会にいる身として、基本的な質問に対しても一切回答を得られなかった」と語った。

ジョニ・アーンスト上院議員(共和党、アイオワ州)は2月4日にルビオ氏への書簡で、USAIDによる妨害事例を詳細に語った。USAIDは、一部書類を機密扱いにしたり、連邦契約に関する情報を議会に提供することは連邦法違反だと主張することで、議会による監督を回避していた。

エポックタイムズがUSAIDにコメントを求めたところ、「一般的な問題として、我々は議会からの書簡にコメントはしない」と述べた。

USAIDで軍民協力業務を担当したマーク・モイヤー氏(2018〜19年)は、「役人が頭を捻らせて巧みに資金を隠そうとする組織だ」と指摘した。

モイヤー氏は2月6日のFOXニュースのインタビューで、存在を確認できないUSAIDの計画が第一次トランプ政権の時に多数あり、それらが最近になって明らかになったと述べている。

機密情報を公開したとしてUSAIDから解雇されたモイヤー氏は、「腐敗を暴露したことに対する報復行為だ」と語った。

撤去されるUSAID本部の看板(Kayla Bartkowski/Getty Images)

他の議員からも、USAIDはアメリカの政府機関でありながら国内の懸念や文化に対して無神経だ、という指摘を受けている。

ルビオ氏は、USAIDの仕事によって国務省の信用が傷つけられることが多いと非難した。

「USAIDは、我々が協力したいと思っている相手国の機嫌を損ねるようなプログラムを支援している」

マイケル・マコール下院議員は、アメリカよりも保守的な国で「LGBTQIAプログラム」を支援したり、カトリックの政府に訴訟を起こしたり、チベット仏教の本拠地であるネパールで無神論を推進したりするなど、USAIDは自滅行為をしていると指摘した。

マコール氏は2月9日のインタビューで「これらがUSAIDの信用を傷つけている」と話した。

USAIDの長官代理を務めるピーター・マロッコ氏によれば、閉鎖の危機に瀕しているにも関わらずUSAIDの職員らはトランプ政権の命令に服従しない姿勢を見せている。

エポックタイムズはUSAIDにコメントを求めたが、現時点で回答はない。

USAID支持者らの反応

カリフォルニア大学バークレー校で政治、公共政策分野の教鞭を執るヘンリー・ブレイディ氏は、USAIDに対する批判は対外援助のアプローチへの異なる考え方に起因するものだ、と指摘する。

ブレイディ氏は取材に対し、「トランプ新政権は、USAIDの任務とアプローチについて文化的に異なる見解を持っている」「ゆえに、USAIDは共和党からの信頼を失った」と述べた。

議会による監督については、事実の追求よりも政治が優先される傾向が近年強まっており、「党派性が強い状況下では、政府機関は情報提供を渋る傾向にある」と語った。

米上院民主党トップ、チャック・シューマー院内総務は議場で米政府効率化省(DOGE)の影響力を非難し、USAIDワシントンオフィス閉鎖の違法性を指摘した。

「我々の目には、選挙で選ばれていない陰の政府が連邦政府を強引に乗っ取ろうとしているように見える」

シューマー氏は、USAIDの閉鎖は対外援助を通じたアジアやアフリカにおける対テロ作戦の弱体化を意味し、アメリカの安全保障を脅かしている、と述べた。

パワー氏は2月6日、ロシア外務省が米対外援助の一時停止を歓迎したとして、「アメリカの国益と安全保障にとって災害的だ」と非難した。

元USAID職員のアンディ・キム上院議員(民主党、ニュージャージー州)は、トランプ政権の行動は「アメリカの撤退」を意味する、と語る。

キム氏は2月10日の報道番組で、「中国は影響力の拡大に邁進する必要がなくなった。アメリカが自ら撤退したのだから。我々は中国に手を貸したということだ」と話した。

大統領執務室で発言するイーロン・マスク氏(Andrew Harnik/Getty Images)

 

議会でスピーチをするチャック・シューマー院内総務(Anna Moneymaker/Getty Images)

2月7日、ティム・ケイン上院議員(民主党、バージニア州)とクリス・ヴァン・ホレン上院議員(民主党、メリーランド州)は共同で、国務省の対外援助担当官については上院による承認を義務付け、対外援助資金は議会の承認後90日以内に「指示通りに使用されなければならない」と規定する法案を提出した。

ホレン上院議員は声明で、「この法案は、大統領も選挙で選ばれていない大口献金者も、議会で制定された法律を施行するという法的な義務を無視できないことを明らかにした」と語った。

トランプ政権の目的は、対外援助をアメリカの利益にかなう形へと修正することだ。

マコール下院議員は、「USAIDには国家安全保障のために果たすべき使命がある」「60年代に発足した当初の目的はソ連への対抗だった。我々はかつてのUSAIDの存在意義を取り戻す必要がある」と述べた。

USAIDの問題点を指摘したアーンスト議員は、閉鎖ではなく資金援助先に対する独立調査を求めている。

ルビオ氏は長い間、財政赤字に関係なく対外援助は必要だと唱えてきた。

2012年、ルビオ氏は米シンクタンク「ブルッキングス研究所」のパネリストとして「世界のあらゆる場所で米国の対外援助や人道支援を有効活用し、米国の影響力とリーダーシップの強化、および国益と理念の達成に貢献する必要がある」と発言していた。

USAIDを完全に閉鎖するか、一部機能を国務省に移転する形で組織改革を行うかについては、未決定だという。

パワー氏はCNNのインタビューで、USAIDが国務省の傘下に戻った場合、マラリア対策、災害に強いインフラ整備、コミュニティの非急進化といったプロジェクトに携わる専門職員を失うことになる、と述べた。

クリス・クーンズ上院議員(民主党、デラウェア州)は2月12日の討論会にて、共和党がUSAIDの処遇をめぐって分裂しているようだと指摘した。また参加者に対して、国際社会における米対外援助の信用を回復させるのは可能か、と尋ねた。

元USAID職員のシンディ・ダイアー氏はこれについて、「USAIDを立て直し、国益を守ることは難しいが不可能ではない」と答えた。

トランプ政権が発動したUSAIDの対外援助一時停止と職員への休職処分については、連邦裁判所の判断が待たれる。

エポックタイムズの政治記者
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