イギリスの金融規制当局は3月13日、金融業界における多様性と包括性(DEI)を強化する規制案を撤回すると発表した。
金融行動監視機構(FCA)とイングランド銀行の監督機関である健全性規制機構(PRA)は、企業への負担が大きいことを理由に、新たな規制導入を見送る方針を決定した。
当初の計画では、大手金融機関に対し、従業員の性別や人種などのデータを収集・報告し、代表性の低い層の割合を改善するための目標を設定することが求められていた。しかし、規制当局は「多様な意見のフィードバック、今後の法改正の動向、そして現時点で企業に追加の負担を課さないため、この取り組みを進める予定はない」との共同声明を発表した。
PRAのサム・ウッズCEOは、新たな要件について「企業の競争力を高めるための規制緩和と矛盾に見える可能性がある」と説明した。
企業負担の軽減を優先する動き
イギリス政府は、企業の規制負担軽減を進めており、1月にはリーブス財務大臣が「企業活動を妨げない規制方針」を求める方針を示していた。
2021年に発表された討議文書の中で、イギリスの金融規制当局とイングランド銀行は、「多様性と包括性は健全な企業文化を促進する重要な要素であり、企業全体に組み込まれるべきである」と述べた。
FCAは2022年に、イギリス上場企業に対し、取締役会や経営陣における女性および少数民族の代表割合について報告・開示を義務付けた。この規則では、取締役会の40%以上を女性とし、経営陣の主要ポジションの1つ以上に女性を登用すること、さらに「白人以外の少数民族出身者を取締役に最低1人含めること」が求められていた。
しかし最近では、企業側から「多様性推進が業績に悪影響を与える」「特定のグループの優遇は逆差別につながる」との懸念が強まっており、FCAとPRAの決定もこうした意見を考慮したものとみられる。
DEIの見直しが進む金融業界
イギリスの金融業界団体UKファイナンスは、企業が「多様性推進に対する反発の高まりに直面し、対応を求められていると指摘した」と指摘。
金融業界でのDEIの推進を求める団体「Reboot」は、今回の規制当局の決定に対し「非常に残念だ」とした。
同団体が実施した調査では、中堅から管理職レベルの800人のうち70%が「2020年以降、DEIの進展はほとんど見られない」と回答したと報告した。
Rebootは、「近年、地政学的な不確実性や環境・社会・ガバナンス(ESG)関連の圧力が高まる中で、DEI推進への反発も強まっている」と分析した。「規制当局が直面する課題は理解するが、今回の決定はDEI推進に逆行するメッセージを発信するリスクがある」と懸念を示した。
「実力主義」へとシフトする動き
イギリスだけでなく、アメリカでも企業のDEI施策が見直される傾向が強まっている。
トランプ大統領は、2期目の任期中にDEIプログラムの撤廃を命じる大統領令を発令し、すべての連邦機関で適用を拡大した。就任演説では「政府が人種やジェンダーによる社会の操作を行う政策を廃止する」とし、「公平で実力主義の社会を築く」と強調した。
法律事務所オズボーン・クラークのノリーン・マテメラ氏は、「イギリスの金融規制当局が最終的な規則発表を繰り返し延期してきたことを考えると、今回の決定は驚くべきものではない。ただ、これが英金融業界でのDEI施策の終焉を意味するのかは不透明だ」と指摘した。
アメリカでもDEI施策を縮小する動き
アメリカの大手企業でも、DEIプログラムの縮小が相次いでいる。
メタ、ゴールドマン・サックス、ターゲットなどがDEI施策を縮小または廃止。ボーイングは昨年、多様性推進プログラムを解体し、DEI部門の責任者だったサラ・リアン・ボーエン副社長が2024年10月に辞任した。
メタの広報担当者は、大紀元の取材に対し、「メタの広報担当者は、『今後、採用や人材開発、調達プロセスにおいてDEIを考慮しない方針だ」と説明している。
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