ハーバード大学の留学生受け入れ資格停止 日本人留学生への影響

2025/05/23 更新: 2025/05/23

トランプ政権がハーバード大学の留学生受け入れ資格を停止。約6800人の留学生や日本人学生に大きな影響が及び、大学と政権の対立が激化している。日本政府はこの事態を深刻に捉え、関係省庁間で対応策の協議を進めている。

5月22日、トランプ政権はハーバード大学に対して留学生受け入れ資格を取り消す決定を下した。アメリカ国土安全保障省(DHS)のクリスティ・ノーム長官は声明で、同大学の学生・交流訪問者プログラム(SEVP)認証を撤回した事実を明らかにした。この措置により、日本人を含む約6800人の留学生は他大学への転学か、アメリカ国内の合法的な滞在資格の喪失という選択を迫られている。今回の決定は各方面に大きな衝撃を与えている。

「特権であり権利ではない」 ノーム長官が厳しく非難

ノーム長官は声明で、「留学生の受け入れは特権であって権利ではない」と述べた。ハーバード大学が留学生の記録提出義務を十分に履行せず、中国共産党との協力関係や、暴力・反ユダヤ主義・テロリズム擁護者への寛容な姿勢を示している点を問題視した。また、「今回の決定は全米の大学・学術機関に対する警告でもある」と強調し、政府の厳格な姿勢を明示した。

これに対し、ハーバード大学は「この措置は違法であり、大学の研究使命を損なう」と反論している。

SEVP認証の喪失が6800人の留学生に与える影響

DHSが下したSEVP認証の撤回は、ハーバード大学に深刻な打撃を与えている。SEVP認証は、大学が外国人学生に対しビザ申請に必要な書類を発行できる資格を意味し、この資格が失われれば留学生は学業の継続が不可能となる。

ハーバード大学のデータによれば、2023年秋学期の時点で留学生が全体の27%以上を占めている。今回の措置によって、留学生たちは進路の再検討を迫られている。

ノーム長官は、今学期で卒業予定の学生には卒業を認める方針を示す一方、2025~26年度からは在籍中の学生に他大学への転学を求める姿勢を明確にした。加えて、ハーバード入学予定者についても、政府の決定が覆らない限り秋学期からの入学は不可能になる。

ただし、ハーバード大学が72時間以内に留学生の懲戒歴や抗議活動への関与を示す音声・映像記録など、政府の要求を満たす情報を提出すれば、SEVP認証の回復も選択肢として残されている。大学側は、影響を受ける学生に対する支援策を検討中であると明かしている。

政府の権限と過去の前例

アメリカ政府は、どの大学がSEVP認証を保持し、どの外国人学生が入国できるかを監督する法的権限を持つ。過去にも認証の取り消しは存在したが、その多くは教職員の資格や制度的な問題によるものだった。今回のように、中国共産党との関係や反ユダヤ主義への対応といった政治・社会的な理由に基づく認証取り消しは極めて異例である。アメリカ教育委員会のサラ・スプライツァー副会長も「前例がない」と指摘した。

トランプ政権とハーバード大学の対立構図

今回の措置の背景には、トランプ政権とハーバード大学の対立が横たわっている。政府は4月初旬、ハーバード大学に対して大学運営や採用・入学方針の大幅な見直し、親パレスチナ抗議活動の制限、多様性・公平性・包摂性(DEI)政策の廃止を要求したが、大学側はこれを拒否した。これを受けて政府は、総額約22億6千万ドルの連邦資金および6千万ドルを超える複数年契約金の凍結を発表した。

さらに、政府は4月18日に過去10年間の外国資金や一部外国との関係記録の提出も要求した。ハーバード大学はこれに対して、資金凍結措置が学問の自由を侵害するとして4月21日に提訴した。

他大学への波及と政府の警告

ノーム長官は22日午後、FOXニュースのインタビューで「今回の措置は全ての他大学に向けた警告である」と述べた。「学生が安心して学べる環境を整備し、人種や宗教に基づく差別を排除する責任が大学にはある」としたうえで、「反ユダヤ主義は決して許容されない。アメリカに敵対的な国家・団体・テロ組織との協力行為も容認しない」と断言した。

日本人留学生への影響

今回の措置は、日本人留学生にも等しく影響する。現在、100人以上の日本人留学生が在籍しているとされる。これらの留学生は、他大学への転校が不可避となり、転校しなければ合法的な滞在資格を維持できない状況に直面する。また、今後はハーバード大学への新規留学も不可能となる。

日本政府の対応

日本政府はこの事態を深刻に捉え、関係省庁間で対応策の協議を進めている。

林官房長官は、「ハーバード大学には多くの日本人留学生が在籍しており、日本政府としても高い関心を持って状況を注視している」と述べたうえで、「日本人学生への影響を抑えるため、アメリカ側への働きかけなど必要な対応を実施していく」と明言した。

文部科学省の阿部俊子大臣も、「留学生や研究者への影響を含め、まずは情報収集に力を注ぐ」と述べた。

現時点で具体的な救済措置や支援策は公表されていないが、日本政府はアメリカ側との協議を進めるとともに、日本人学生への影響を最小限にとどめるための対応を模索する方針である。

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