24日、台湾の名門、国立政治大学は2025年9月21日に「安倍晋三研究センター」を設立すると発表した。同大学は4月6日、今秋にもセンターを開設する方針を明らかにしており、準備が進められてきた。センターは、同大学で国際関係の研究を担う「国際事務学院」の付属組織として設置される予定である。設立予定日の9月21日は安倍氏の誕生日(1954年9月21日)だ。
安倍晋三元首相は、台湾との関係を重視した姿勢や、銃撃事件で亡くなったこともあり、台湾で高い人気を誇っている。今回のセンター設立は、日台間の学術交流をさらに進め、若手の日本研究者を育成することを主な目的としている。
研究センターでは、安倍氏が提唱した外交方針「自由で開かれたインド太平洋」構想や、経済政策「アベノミクス」を中心に、現代日本の外交や経済政策についての学術的な研究が行われる予定だ。2月には同大学の関係者が第1回の準備会議を開き、組織規約案をまとめている。
センター設立の準備を主導する李世暉教授は、「日本国内では安倍氏に対する評価はさまざまだが、台湾では非常に高い。日台双方が互いの視点を理解し合うことを目指したい」と述べている。
台湾では、安倍氏の死去後、南部・高雄市の廟に有志が銅像を設置するなど、安倍氏を顕彰する動きもみられる。
安倍氏提唱「自由で開かれたインド太平洋」
安倍氏は2007年、インド国会で「二つの海の交わり(Confluence of the Two Seas)」と題した演説を行い、インド太平洋という新たな地政学的枠組みを初めて国際社会に提示した。その後も「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略を日本外交の柱とし、民主主義や人権、法の支配といった価値観を共有する国々との連携を強化した。
この構想は、中国の影響力拡大を背景に、ASEANや台湾を含む地域諸国との関係強化を重視しており、台湾にとっても重要な意味を持つ。実際、安倍政権下で日本と台湾の実質的な関係は強化され、台湾側も「自由で開かれたインド太平洋」への賛同を表明している。
この「自由で開かれたインド太平洋」構想には、アメリカも賛同した。ドナルド・トランプ大統領(第一期政権当時)は2017年11月、ベトナム・ダナンでの演説で「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを明確に支持し、米国のインド太平洋地域への関与を最優先事項と位置付けた。トランプ政権は安倍氏の構想を受け継ぎ、同地域での法の支配や自由貿易、航行の自由などの価値観を共有する国々との協力を強化した。
このように、「自由で開かれたインド太平洋」構想は、日米両国が連携して推進してきた国際的な枠組みであり、台湾を含む地域の安全保障や経済発展にも大きな影響を与えている。
今回の研究センター設立は、こうした安倍氏の外交理念や国際戦略を学術的に検証・発展させる場となる。そして、台湾における日本研究の発展と、日台の相互理解を深める新たな一歩となることが期待されている。
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