また一人、中国の陳情制度に絶望した市民が命を絶った。
6月17日、浙江省瑞安市(ずいあん-し)の政府庁舎前で、ある女性がガソリンをかぶり、自らに火を放つ衝撃的な事件が発生した。
現場の映像には、炎に包まれ倒れこむ女性の姿と、市民の悲鳴、子供の泣き声が記録されていた。火が消えた後、女性はうつ伏せに倒れ、衣服は黒焦げ。死亡が強く疑われる。
ネット上では、この女性が陳情者であり、訴えが届かずに自ら命を絶ったと伝えた。
(当時の映像、モザイク処理済み)
中国には、行政や司法の不正を訴える手段として「陳情制度」が存在する。表向きは、市民の声を吸い上げ、社会の安定を保つ制度としているが、実態はほど遠い。
たとえ制度上認められていても、実際に中央へ訴え出ようとすれば、待ち受けているのは拘束、監視、そして地元への強制送還だ。地方政府にとって「問題を告発されること」は官僚の出世に関わるため、陳情者を「黙らせること」こそが重要とされるからだ。
日本ではあまり馴染みのないこの制度。しかし、日本の市民運動や行政監視に通じる「上に声を届ける権利」が、命がけの陳情でも封じられている現実が、すぐ隣の国で起きている。
あの女性が最後に選んだ「炎の声」は、陳情制度の名を借りた国家の無関心と弾圧を、誰よりも雄弁に告発している。

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