トランプ政権下で進められている日米の関税交渉が、5月下旬以降、行き詰まっている。アメリカ側は、日本からの自動車輸出に上限を求める可能性を示唆し、日本側は自動車への高関税が続く限り合意できないとの立場を崩していない。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、5月下旬にワシントンで行われた閣僚級交渉の場で、米商務長官のハワード・ラトニック氏と通商代表のジェイミソン・グリアー氏が、日本側に対し「早期に合意できなければ、トランプ大統領が課した自動車関税の緩和から、さらに追加的な制裁措置へと議論が移る可能性がある」と警告したという。具体的には、日本の自動車輸出台数に上限を設ける「自主規制」の導入を求める姿勢を示したとされる。
これに対し、日本政府は一貫して強硬な姿勢を維持している。日本側は「自動車への25%関税が維持される限り、いかなる合意にも応じられない」と主張し続けている。日本政府は自動車関税の大幅な引き下げを求めており、特にイギリスが鉄鋼や自動車関税で一定の緩和を受けたことを踏まえ、日本にも同様の措置を求めている。
交渉は4月中旬から始まり、赤澤亮正経済再生相がこれまでに7回ワシントンを訪れ、米商務長官や財務長官、通商代表と協議を重ねてきたが、合意には至っていない。
WSJによると、トランプ大統領は6月末、SNSで「日本は我々のコメを受け入れない」と不満を表明し、交渉の打ち切りを示唆する発言もあった。さらに、「日本が合意しなければ、自動車に25%の関税を課す」とも発言しており、交渉の先行きは極めて不透明な状況だ。
アメリカは自動車関税だけでなく、農産物の関税引き下げや対米投資の拡大なども日本側に求めているが、農産物の譲歩には慎重な姿勢を崩していない。特に7月20日に参議院選挙を控える中、与党内からも「コメの輸入拡大は考えられない」との声が上がっている。
交渉の行方を左右する要因の一つは、日本の国内政治状況である。WSJによると、仮に日本政府が自動車関税の撤廃や大幅な緩和を勝ち取れなければ、与党・自由民主党内でも政権批判が強まり、石破茂首相の政権基盤が揺らぐ可能性があるとされる。
今後の焦点は、アメリカが自動車関税や輸出台数制限の要求をどこまで強めるか、そして日本が国内産業と国際交渉のバランスをどう取るかにある。双方の溝が埋まらない限り、交渉の長期化は避けられない見通しだ。
トヨタをはじめとする多くの日本の自動車メーカーは、過去数十年にわたりアメリカ市場での関税リスクを回避するため、現地に大規模な生産拠点を築いてきた。しかし、仮にアメリカの関税が35%に引き上げられた場合、日本の自動車メーカー全体に大きな影響が及ぶことは避けられない。
日本貿易振興機構によると、現在の25%の追加関税でも、トヨタは2025年4~5月分だけで1800億円のコスト増を見込んでおり、通年では営業利益が約1千億円減少、純利益は前年比で約35%減少する見通しを示している。ホンダも営業利益が前年度から7134億円減少して5千億円になると予想しており、他の大手メーカーも業績への深刻な影響を警戒している。
アメリカ工場で生産される車両については関税の影響を受けないものの、日本からアメリカへ輸出される完成車や部品は大きな打撃を受ける。特に、アメリカに工場を持たない中小部品メーカーは苦境に立たされる恐れが強い。
一方で、トヨタは自社のメディア「トヨタイムズ」で「国内生産300万台体制は揺るがない」とし、「場当たり的な対応はとらない」との方針を示している。
短期的には仕向け先の調整や現地生産の拡大などで対応し、中長期的には現地開発・現地生産をさらに強化する構えだ。
しかし、関税が恒常化・高率化すれば、日本からの輸出自体が減少し、グローバルな生産体制の見直しや国内雇用への影響も避けられないとの見方が強い。
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