中国 「タダ飯」に湧く消費者の裏で、疲弊する現場

タダ飯の時代が来た? アリババVS美団 中国で「無料注文」戦争が勃発

2025/07/09 更新: 2025/07/09

中国のIT業界をけん引する巨大企業アリババと、出前・旅行予約など生活密着型サービスを手がける美団(メイトゥアン)が、即時小売(即時配達)・フードデリバリー市場で真っ向から激突した。

両社が繰り広げる「無料注文(中国語:0元購)」クーポン合戦が中国全土を席巻。消費者は歓喜する一方で、アプリはダウン、店舗や配達員の現場が限界を超えたのだ。

7月5日、アリババ傘下の「餓了麼(ウーラマ)」と「淘宝閃購(タオバオ・フラッシュショッピング)」が「満25元で21元引き」「満16元で16元引き」など、大幅な値引きキャンペーンを開始。ユーザーは、実質タダで食事や飲料を注文できた。

すぐにそのライバルの美団も「満19元で19元引き」といった同じようなキャンペーンを打ち出して、応戦。注文数は1日で1.2億件を突破し、過去最高を更新したが、アプリが一時的にダウンするなど、前例のない事態となった。

 

イメージ画像。黄色い制服を着た、デリバリー最大手の美団(メイトゥアン)のデリバリー配達員。2018年6月26日撮影(WANG ZHAO/AFP via Getty Images)

 

SNSでは「タダでミルクティーを7杯頼んだ」「約6元(約120円)で15品注文した」といった投稿が飛び交い、実店舗には、無料商品を求める数百人が列をなす盛況ぶりとなった。

一方で、飲食店の現場は混乱を極めた。中にはスタッフが1日14時間働き、通常の5倍の注文に追われて在庫が枯渇する店舗も続出。配達員も急増する注文に振り回され、「稼げるからまだいい」と語る者がいる一方で、疲労困憊(ひろうこんぱい)の様子を隠せない者も多かった。

一方で、この「タダメシブーム」に冷めた視線を送る人々もいる。中国本土の弁護士は、本紙の取材に「過剰競争でライバルを潰し、市場を独占しようとしている。私は参加しない」と批判した。

中国の外売市場はすでに成熟期に入り、美団が約7割のシェアを握る中、2割強にとどまっていた「餓了麼」の奇襲は、アリババ再編後の初の実戦とみられた。業界関係者は、今回のキャンペーンでアリババと美団の双方が数十億元(数百億円)規模の資金を「燃やしている(赤字でもやる)」と推測している。

 

中国浙江省杭州市にあるアリババ本社内部(2015年6月20日撮影、Peter Parks/AFP/GettyImages)

 

このクーポン合戦は飲食にとどまらず、生鮮、医薬品、電子機器など即時小売全体に波及した。台湾・南華大学の孫国祥教授は「このモデルは長期継続できない。市場構造が固まるか、資金が尽きれば終息する」と指摘し、観測筋は、この合戦は9月ごろにピークを迎え、その後は政策と資金次第で転機を迎えるという。

このままでは最終的に市場は「美団と餓了麼の2強体制」になり、合戦に参加しなかった京東(ジンドン)は主戦場から脱落する可能性が高いとの見方もある。

こうした泥沼の消耗戦のなかで、いまのところ、唯一ほくそ笑んでいるのが飲料ブランドたちだ。ユーザーが「タダメシ中毒」に陥る一方で、「茶百道(Cha Panda)」「古茗(グーミン、Guming)」「滬上阿姨(Auntea Jen)」などの株価はしっかりと上昇。クーポンをばらまき、巨額の資金を「燃やす」プラットフォームをよそに、実利を得たのはその炎に便乗した者たちだった。

 

(Shutterstock)

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
関連特集: 中国