中国・四川省南充(なんじゅう)市で創業73年を誇る老舗四つ星ホテル「北湖賓館(ほくこひんかん)」が、7月15日からホテル裏手の駐車場で惣菜の屋台を始めた。
同館は、観光予約サイトの評価で「南充市内の高級ホテルで第1位」とされる格式あるホテルであり、その路上進出は地元住民にも大きな驚きを与えた。
朝は中華まん(2元/約40円)や豆乳(1.5元/約30円)などの朝食を、夜は煮込み肉(38~110元/約800~2200円)などの惣菜12品を販売し、切り分けや包装は、20年以上星付き宴席を手がけてきた料理長が担当して、屋台横ではホテルスタッフがライブ配信まで行う本気ぶりだ。屋台開始からわずか1時間で完売する人気を見せ、SNSでは「五つ星ホテルの包丁が屋台で炸裂」「2元で高級料理が買える時代が来た」と話題をさらった。
しかしその一方では、「五つ星ホテルが庶民の飯碗を奪ってどうする」「これでは小さな食堂は太刀打ちできない」といった小規模飲食店の淘汰を懸念する声や、「高級ホテルが路上で生き延びようとする姿に涙が出る」といった皮肉や嘆きも相次いだ。
こうした異常事態の背景には、6月に中共当局が発出した「禁酒令」がある。公務員を中心に3人以上の会食や酒の提供が禁止され、富裕層向けの高級・非公開クラブ(いわゆる「私人会所」)も利用を制限され、家庭での会食ですら制約する徹底ぶりで、昇進祝いや結婚式、接待などの宴席が相次いで中止となった。
これにより、中高級ホテルやレストランは経営難に直面し、全国で「屋台シフト」に動き出た。星付きホテルが路上で生き残りを図る一方、競争力を失った小規模飲食店は次々と倒産に追い込まれた。
その流れは南充市にとどまらず、江西省贛州(かんしゅう)市や安徽省、上海など全国に波及し、星付きホテルが弁当や惣菜を売る「屋台化」がSNSでも何度もトレンド入りし、地域によっては「屋台PK(販売対決)」まで始まる異様な状況だ。
こうした危機の背景には、中国経済の構造的問題があると指摘し、アメリカとの関税交渉が不利に働き、内需は冷え込み、消費者は財布の紐を締めるばかりで、飲食業界専門メディア「紅餐網(こうさんもう)」によると、2024年に倒産した飲食店は約300万軒と過去最多を記録している。
また、中国の国家統計局が発表した今年6月の若年失業率は14.5%(学生を除く16~24歳)とされたが、多くの若者が職探しを諦めて統計から除外されており、「実態はもっと深刻」との声が強い。
経済低迷と禁酒令の二重苦で、飲食業界はまさに「泣きっ面に蜂」だ。
見栄も威厳も脱ぎ捨てて、ホテルは路上に出てみたが、「料理の腕はあっても、明日の保証はない」──屋台に立つ料理長の背中が、すべてを物語っている。

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