社会問題 市民に広がるのは「蚊への恐怖」ではなく「人による支配」の記憶

また来た「ゼロコロナ式」再燃する強権防疫 無断で強制検査   中国・広東省

2025/08/01 更新: 2025/08/01

中国広東省佛山市で、蚊が媒介するウイルス「チクングニア熱」が急速に拡大し、7月末時点で市内の感染者は4,000人を超えたと公式発表された。ただし、実際の感染状況については不透明なままである。

発熱や発疹、関節痛などの症状を伴うこのウイルスは、北京や上海でも感染が確認されており、中国全土で警戒強化中だ。

 

検査を受けるために長蛇の列をなす市民たち。2025年7月下旬、中国広東省佛山市(映像よりスクリーンショット)

 

感染拡大を受けて当局は、全住民を対象に血液を用いたPCR検査(核酸検査)を実施中で、市内の各医療機関前では、検査を受けるために並ぶ市民の長い列が確認され、防疫作業員が路上や公共スペースで消毒液を撒く様子も各地で見られた。

 

(左)拡声器で「みんなPCR検査するよ~」と呼びかける防疫要員。(右)蚊の駆除と消毒を行う防疫作業員。2025年7月下旬、中国広東省佛山市(映像よりスクリーンショット)

 

SNSには「また新型コロナが始まったかのようだ」「中共が再び都市封鎖型の防疫措置を始めるのでは」といった、市民の戸惑いや不安の声があふれた。

こうした中、佛山当局は、蚊の発生源を調査するとして、各家庭への立ち入りを開始したが、住民が不在の住宅でも鍵を破壊して強制的に侵入し、拒否した世帯には電力を停止、「ブラックリスト」に登録するという措置も取られた。市民からは「通知も書類もなしに鍵を壊された」「もはや法も理屈も通じない」といった怒りの声が噴出した。

 

ブレーカーに封鎖を示す紙を貼り、電源を遮断する防疫要員。2025年7月下旬、中国広東省佛山市。(スクリーンショット)

 

7月31日から、さらに佛山市政府は「7日間蚊の撲滅キャンペーン」を開始し、住民に対し、毎日2回の蚊駆除作業や蚊帳の設置、蚊取り線香の使用、水生植物の廃棄などを義務付けた。行政主導で市民を一斉動員するこの防疫方針は、毛沢東時代の「除四害(ねずみ・蚊・ハエ・スズメ撲滅運動)」を思わせるもので、「70年前のやり方がまた復活した」と冷ややかな反応が広がった。

 

大量の蚊取り線香を焚いている佛山市民の自宅の様子、2025年7月下旬、中国広東省佛山市。(SNSより)

 

こうした影響は佛山市外にも広がり、最近佛山を訪れた場合や、あるいは身分証の住所が佛山というだけで、他都市のホテルで宿泊を拒否されたり、病院でデング熱の検査を強制されたという報告が相次いだ。

SNS上には「佛山に行った人のリスト」まで出回っており、「まるでコロナ初期の『私は武漢から来た』を再現しているようだ」との声も多い。この言葉は当時、隔離や差別の対象となった市民を象徴し、SNSでは「最も効果的に人を遠ざける一言」と皮肉られた。

 

(蚊の駆除と消毒作業を行う防疫作業員。2025年7月下旬、中国広東省佛山市)

 

新型コロナの記憶が癒えぬ中、中国社会に再び「強権防疫」が覆いかぶさろうとしているが、人々が本当に恐れているのは、蚊そのものではなく、それを理由に繰り返される「人間による支配」なのかもしれない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
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